お礼はホテルで

・作

あるOL神崎は、職場の飲み会でのセクハラに困っていた。そこを助けてくれたのは、最近異動してきた上司の篠田。以前よりかっこいいと思っていた篠田に助けられ、神崎は嬉しく思い、礼を申し出るとホテルへと誘われる。しばらく男日照りが続き、好ましくないわけでない篠田に誘われた神崎は、そのまま共にホテルで一夜を明かすことに……。

帰りたい、と思うことが、仕事以外でもう一つある。

それは職場の飲み会。

こんなもの、地獄同然である。

私の勤める部署はおじさんが多い。

私以外の女性もいるものの、なんだかんだと理由をつけて飲み会に来たがらない。

「神崎ちゃんは優しいよねえ、まだ独身だからこうして付き合ってくれてさ」

なんて課長は言うけれど、私だってさっさと家に帰って好きな俳優が出てるドラマが見たいわよ!

ましてや女性が私だけなせいで、無礼講だとか言って平気でベタベタ身体も触ってくるし、やめてほしい。

どうせならもっとイケメンに触ってほしい。

後、独身について触れることは、最近ではハラスメントになるんだけどな。

誰も助けてくれないし、腹痛とか理由つけて適当に帰ろうかな、なんて思っていた矢先のことだった。

「課長、神崎さんも嫌がってるし、その辺にしてあげたらどうですか」

そう声をあげてくれたのは、最近うちの部署にやってきた篠田さん。

別の部署から異動してきた私の上司にあたる人だけど、年齢もそんなに離れていない。

見た目もそんなに悪くないし、実はちょっとだけ狙っていた。

そんな人に庇われて、少しだけ心がキュンとなる。

「なんだい篠田君、文句でもあるか?」

「ええ、大ありですね。神崎さん、嫌がってるじゃないですか」

やいのやいのと課長と言い争いが始まった。

ああ、これはこれで面倒だな……と苦笑しながら見守っていると、篠田さんは私の手をとって居酒屋から抜け出す。

え、え、と迷いながらも篠田さんに連れられ、一緒に夜の街を歩いた。

「あ、あの、篠田さん」

「……あ、ごめんね。手繋ぐの、嫌だった?」

パッと手を離されると、それはそれでなんだか寂しい。

というか、男の人に手を触られるなんて久しぶりだった。

「いえ、全然!それより、助けてくれてありがとうございます。課長っていつもあんな感じで、正直困っていたんですよね」

「そうだったの?ダメだよ、ちゃんと断らないと」

ニコと微笑む篠田さんの顔が夜の街の明かりに照らされ、お酒も入ってるせいかちょっと色っぽく見える。

かっこいい上にこんな風に助けられちゃったら、ドキドキが止まらない。

「あ、の……本当にありがとうございました。このお礼は必ず……」

顔を見ていられなくて、耳に髪をかけるふりをして視線を逸らす。

すると、またも篠田さんに手を取られた。

「今貰っちゃ、だめ?」

手を取られた拍子にぐいっと引っ張り寄せられ、腰を擦られる。

「ひ、あっ……」

ほんの少し上下に擦られているだけなのに、なぜだか気持ちよくて思わず声が出た。

恥ずかしくて口を塞ぐと、篠田さんはクスっと微笑む。

「……その、どこに飲みなおしに行きます?」

「そういうことじゃないよ。神崎さんも大人なんだし、わかるでしょ?」

これはかなりひどい誘い方だ。

課長のセクハラから助けられたと思ったら、ホテルのお誘い。

でも、お酒も入ってて、ちょっといいなと思った人に助けられ、そして男日照りの続いている私は断れるわけもなく、頷いてしまったのだった。

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