お狐様は身体が目当て (Page 2)

「ほら、菓子をよこせ!さもなくばお前の身体を貰うぞ!」

まなじりに紅を引いた目を細め、にやりと笑う。

わたしはわかりやすく顔をしかめた。

そうだった。コイツはわたしの身体を狙っているのだ。なんでも、現世で活動するためには現代の人間の体が必要なようで、わたしの身体はお狐様と相性がぴったりなのだそうだ。

そんなこんなで、わたしの身体はお狐様に狙われている。

けれどわたしはまだ今生を生きていたいので、身体を明け渡すわけにはいかない。さて、どうしたものか……。

「あー……お狐様、もう日付が変わっていますからハロウィンは終わりましたよ。だからイタズラもお菓子も無効ですね」

言い訳を述べる口が引きつる。こんなので納得してくれる……、

「何を言っている。おれが眠って起きるまでが『今日』だ。ゆえにまだハロウィン。夏目、菓子の用意は?」

……わけがないか。なんだその暴論は。

ビー玉のような淡い青色の瞳が、わたしをまっすぐ見つめる。わたしは目が合わせられなくて、キョロキョロと落ち着きなく視線を動かし、言葉尻を濁した。

「……なんだ?用意がないのか?ならばそう言わんか」

お狐様は顎に手を当て、ふむと唸る。

「明日絶対用意するから、肉体強奪は勘弁してくれない……?それはフェアじゃないじゃん?」

わたしの話を聞いているのかいないのか、お狐様は黙って何か考え込んでいた。けれどすぐ、いい案でも浮かんだようにぱっと表情を明るくし、にやっと口の端を吊り上げた。

「いや。悪戯は、悪戯だな」

「えっ」

思わず後ずさるわたしに、お狐様は一気に距離を詰めた。

次の瞬間、顎を掬われ、ふにっと唇に柔らかいものが触れた。

お狐様の柔らかい銀髪が顔にかかる。

一瞬の出来事に、わたしは目を白黒させて金縛りにでもかかったみたいに呆然と突っ立っていた。

「なんだ、おかしな顔をして」

「……えっ?ちょ、え?何したの?」

唇を押さえてうろたえる。お狐様はこてんと首を傾げた。

「そんなこともわからんのか。口吸いだ。愚か者」

「……なんで…?」

お狐様は平然とした顔をして、わたしを抱え上げる。

「お前の好きなびーえる、というやつではこの展開がお約束だろう?タブレットに載っていたから間違いではないはずだが。どうだ?この外見もお前の好きな男に寄せてみた。おれのアレンジを加えてな」

何からどう突っ込めばいいのかわからないでいるうちに、わたしは寝室に運び込まれていた。

たしかに、まるで推しが妖狐コスをしているようにも見えて実によい………じゃなくて!

「いやだって、身体を貰うって……これじゃ意味が違うじゃん!!?」

お狐様は、わたしの反応を心底おかしそうに眺めて牙を覗かせた。

「悪戯、だからな。菓子を用意しなかったお前が悪い。さて、ここからは仕置きの時間だ。色気のない口は少し黙れ」

「なっ……!」

言い返す間もなく口を塞がれた。言葉遣いは乱暴なのに、押しつけられた唇は優しく、そのギャップにどぎまぎする。

「ん…ぅ……」

蕩けるような甘いキスに、全身の力が抜けてしまいそう。

お狐様に舌で口内を蹂躙されるまま、ベッドにゆっくり降ろされる。

ベッドに腰をつくも、上手く座れず、お狐様に縋り付く体勢になってしまう。

口の端から垂れる唾液をお狐様がぺろりと舐めとった。

「ははっ……。いい顔ができるではないか」

わたしは、キスをされてからずっと夢見心地で、何をされても何を言われてもずっとぽやぽやとしていた。

服の下に手が伸びる。

「あっ……」

こういうのはご無沙汰であったため、期待してしまっている自分がいる。

じりじりと愛撫が始まる。

ちゅっちゅっと顎や首をついばみながら、胸を触ってくる。

手慣れた手つきに、どこか、もやもやする。

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