私を大人にしてください (Page 2)
夜。私はフラフラと覚束ない足取りで歩いてる。たった今全速力で走ってきたから、もう力が入らない。
家には帰らず、私がたどり着いた先はやっぱりここしかなかった。
「島さん、島さぁん!」
作業場の二階の小さな部屋。そこが島さんの自宅。インターホンも鳴らさずに、私は彼の名前を呼びながら乱暴にドアを叩いた。
「うっせーな」
ドアが開いて、中から煙草を咥えた島さんが怠そうにそう言った。私の顔を見るなり、彼はサッと表情を変える。
「何かあったのか」
見た目からは何もわからないはずなのに、彼は一瞬で気付いてくれる。あぁやっぱり私は、この人のことが大好きだ。
「下行くか」
作業場の方で話そう、島さんはそう言いたいんだ。私は俯きながら、ブンブンと首を横に振った。
「中、入りたい」
「マズイだろそれ」
「お願い」
「お前なぁ」
「お願い…」
必死に懇願する私に折れた島さんは、溜息を吐きながらもドアを大きく開けてくれた。
「意外と片付いてる」
「うっせ」
作業場にはもう何回も遊びにきてるけど、ここに入るのは初めて。いくら頼んでも中へ入れてもらえたことはなかった。
「で」
島さんはさっき咥えてたタバコを灰皿に押しつけると、また別の煙草に火を点ける。
「島さんって、電子煙草吸わないよね」
「あんなもん煙草じゃねぇよ」
「禁煙すればいいのに」
「無理だな」
「でも私、煙草咥えてる島さん見るの好き」
「何かあったのか」
「ねぇ、島さん?」
「あ?」
「私のこと、抱いて?」
何も敷かれてない、固い床。そこにペタンと座り込んで、上目遣いに彼を見つめる。島さんは目を見開いて、口からポロッと煙草を落とす。
「やべ」
慌てたようにそれを拾うと、乱暴に灰皿に押しつけた。
「島さん」
「何があった」
「何も」
「嘘吐くなや」
「ただ、無理矢理押し倒されただけ」
その瞬間、島さんが焦ったように私に手を伸ばした。
「ケガは。どこか痛いとこは。病院は」
「落ち着いてよ。私何もされてないよ」
「いやだってお前今」
普段は飄々としててぶっきらぼうなくせに、こんな時は本気で心配してくれる。
そんな彼を見ながら、自然に笑顔と涙が溢れた。
レビューを書く