おれと一線を越えてよ (Page 2)
「絶対なんかあっただろ。嘘つくなよ。おれがわからないわけないだろ」
テーブルの上におぼんを乗せ、梓の隣にどかっと座る。肩を掴んでガクガクと揺すぶってやると、梓は力なくだが、比較的ましな笑顔を作った。
「優ちゃんには隠し事なんてできないね」
「そうだろ。すぐわかんだから。ほら隠し立てすると為にならんぞ」
茶化しながら、梓の肩や脇腹を突く。
「ふふ。あのね、別に優ちゃんに言うことじゃないんだけどね。私……」
梓が若干乱れた前髪を手ぐしで整える。
「なんだよ」
「同じサークルの人に告白されたの」
「……は?」
おれは、脇腹を突く指を思わず止め、ぎこちなく手を引っ込めた。眉間にしわが寄って、口の端がひくつく。厳しい顔にならないように努めてはいるが、実際どんな顔ができているかわからない。
「はは……ウケんじゃん。返事は、したわけ?」
梓は肯定も否定もせず、ただ困ったような笑みを浮かべるだけ。
「おっけー……したの?」
知らず知らずのうちに梓の肩を掴んでいた。梓はなにも言わない。肩を掴む手に力が入る。
いや。だって、
梓がえくぼを見せるほど笑うのは、おれの前だけ。
梓が豊かに感情を表すのは、おれの前だけ。
梓はずっとおれの隣にいて……。
おれは梓が実はひどい天パだということを知っているし、
天パを気にして、毎日何時間もかけて伸ばしていることも知っている。
梓はずっとおれのことが好きだから、梓はおれのだとずっと思っていた。
ずっと隣にいてくれると思っていた。
「そいつと、付き合うの……?」
視線が合わない。
カッとなったおれは、肩を掴んだまま梓をベッドに押し倒した。梓はなんの抵抗もなく仰向けに転がった。不安そうにおれを見返す梓に、馬乗りになり手首を押さえつける。
「あずは、おれのだろ……ッ!!」
そう言って、無理やり梓の唇を奪った。
んっ、とかすかに息の漏れる音がして、梓は唇を固く閉じる。
それでもおれは唇を重ね続ける。自分の唇で梓の唇をなぞったり、下唇を甘噛みしたり。唇を離されたら、今度は舌で梓の唇を撫でた。
口内に捻じ込むように舌をグリグリ押し込んだり、口の端を、尖らせた舌先でくすぐったりした。
顔を背けられても、何度も何度も後を追って口を塞いだ。
息を吐いて、少し唇を離す。おれは自嘲するように口の端を吊り上げた。
「梓さあ、大学入ってからより可愛くなったよね。こんなにいい匂いもさせてさあ。なに、大学にいい男でもいたの?」
自分から卑屈そうな、嫌な男の声が出る。
両手を上げさせられ、無防備な梓の脇に手を滑り込ませる。
「こんな脇の空いたノースリーブとか着ちゃってさあ……、なんなの、誘ってんの?……ねぇ、おれも男なんだけど」
わかってる?と、呟きながら、首筋に歯を立てる。
ピクッと、梓が小エビのように跳ねた。
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