おれと一線を越えてよ
「同じサークルの人に告白された」と幼馴染の梓は言った。彼女の好意にあぐらをかいていたおれは、その一言に途端に焦り始める。梓が自分の側にいてくれなくなるかもしれない、そう思ったとき、おれは無意識に梓をベッドに押し倒していた。
「同じサークルの人に告白されたの」
隣に座っていた彼女は、おれにそう言った。
*****
「花火キレイだったね」
と、梓は笑った。花火も終わり薄暗い夜道、手が触れ合わない距離で、おれもそうだね、と答えた。
梓とは家が隣同士で、高校まで同じ学校だった。
互いに目指すものが違ったので、進む大学は別々になったが、連絡は今でも取り合っているし、週末にはこうしてよく一緒に遊んでいる。
「このあと、どーする?」
「あー……、おれん家来る?新しいゲーム買ったんだよね。どう?」
「いいじゃん!行く!何買ったの?」
子犬のように懐こく梓が相好を崩した。歯が見えるほど大きく笑うと、右頬にえくぼが浮かぶのだ。梓は。
「何買ったか当ててみてよ。当てたら先にやらしてやるけど」
そう言うと、梓は真剣に考え出した。
梓の答えに、違うよ、ハズレ、など少しからかいながら言ってやると、梓は本当に悔しそうに地団駄を踏む。
梓がこうやって感情をあらわにするのはおれの前だけ。
おれも梓といるのがとても楽しい。こんなに一緒にいて楽しいやつ、ほかにいない。
*****
「『おいみろ!海洋生物の村』じゃん!」
「そー、買ったんだよね。あと個人的にずっと欲しかったBDB。どっちからやる?」
「そりゃ、おい村からでしょ」
梓がゲーム機を手に取り、電源を入れる。ゲーム機を持ったまま、梓はおれのベッドに腰掛けた。梓もおれも実家暮らしなので、互いの部屋など自室も同然な寛ぎ方である。その様子を確認して、おれは立ち上がった。
「麦茶持ってくる。お菓子何食べたい?」
「いや何があるか知らんけど」
「おれのおすすめで持ってくるわ」
茶請けのお菓子はおれのおすすめで、ハッピーリターンにした。
*****
おぼんで手が塞がっていたので、ドアを蹴って部屋に入った。
「お菓子ハッピーリターンにしたわ」
梓の答えが返ってくるまでに、妙な間があった。
「梓、あずさ?」
「……。っあぁ、おいしいよね。ハッピーリターン」
「何、おまえハッピーリターンめっちゃ好きじゃん。どうしたその反応。なんかあった?」
「なんでもない、なんでもない。ちょっと考え事。ぼーっとしてた」
明らかにゲーム機を持つ手は強張っているし、おれに向ける笑顔がぎこちない。なんだその下手くそな笑みは。おれにそんな変な笑い顔見せんなよ。
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