罰は厳しくご褒美は甘く
就職難の中、桜子が見つけた仕事は住み込みのメイド。雇い主の家族も優しく、毎日充実している。しかし、新米ゆえ時々失敗も。そのたびに執事の要に怒られてペナルティーを科される。でもだんだんその回数も減っていき、『ご褒美』をもらえることに…
就職難の中、たまたま見ていた求人広告の片隅に乗っていたメイド募集。住み込み、月に10日の休日。これ殆ど週休2日じゃん。というわけで、早速応募した。
「いつから来れる?」
「明日からでも大丈夫です!」
「3月の卒業式の日は休日にしておきますね。明日と明後日は引っ越し日ということで。3日後からお願いします」
とあっさりと採用された。そうして、現在は新米メイドとして働いている。雇い主であるご主人様もその奥様も優しい方だし、お嬢様も少々お転婆ではあるが可愛い。
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働き始めて半年、新米ゆえ失敗もあるといえばある。今のところ一体いくらするか分からない壺だとかお皿だとかを割ったことはないし、紛失事故もない。
というかそんなことしたらどうなるか…。この屋敷ではミスやメイドとして至らないところがあると終業後や翌日に執事の要さんから新人メイドの教育の一環としてペナルティーが科せられる。ある日は
「桜子、姿勢が悪い。いつも気をつけろと言っているだろ。お前に早く立派な一人前のメイドになってもらうための訓練ととらえろ」
と3時間も頭にお盆を乗せられた。落としたら明日のお盆は3枚にすると言われた。メイド長は姿勢矯正の鉄板だと言っていたが、確かに俯いたり、猫背になると途端にお盆がぐらつく。その日は結局2回ほど落とし、お盆は3枚だったはずが5枚になった。
「姿勢はよくなった。が、今日お茶を出す時よろけたらしいな。奥様が大事にされてるアンティーク食器だ。割れたらお前の給料じゃ足りないどころか、俺たち使用人の全員の給料でも賄えるか…。奥様は泣きながら赦してくださるとしても、俺が許すわけにはいかないからな」
と100均で買ったというめちゃくちゃ華奢なグラスがいくつか載ったお盆をもって長い廊下の端から端まで往復させられた。いかんせん100均製品。ちょっと揺れてグラス同士がぶつかっただけでも儚く破片になってしまいそうなぐらい、脆そう。
見ただけでわかるくらいガラスが薄かった。
緊張で涙目になりながらも手だけは震えないように、廊下を10往復。一個も割らずにすんだ。
「よくやった桜子。お前はやれば出来る子だもんな。また一人前のメイドに一歩近づいたんじゃないか?」
と頭を撫でてくれる。笑いながらそういわれるのが嬉しくて、早く一人前のメイドになろうと思った。私は大分簡単で扱いやすい女だったことだろう。
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