憧れだった家庭教師の先生と再会した夜

・作

5年間ずっと忘れることのなかった憧れの家庭教師の先生。偶然再会してみるとあのころと変わっていない先生の優しい声、表情にまた心を奪われる。そんな先生から誘われて、ホテルへ行き甘い一夜を過ごすことになるなんて…。

『もしかして…芙美(ふみ)ちゃん?』

自分の名前が呼ばれたことよりも、聞き覚えのある優しい声に驚き、後ろを振り返った。
そこには5年前と同じ笑顔の先生がいた。

『やっぱりそうだ、芙美ちゃんだ。俺、わかる?』

わからないわけはない。
一日だって忘れたことなかったよ…と言いたい気持ちを抑え、笑顔で答えた。

「藤井先生ですね、お久しぶりです」

*****

高校3年の夏。
母が申し込んだ家庭教師の派遣会社からやってきたのは大学生だった。

藤井先生、4歳年上の優しそうな先生を見た瞬間から私は好きだになっていたと思う。
その日から週に2回、先生が来るのが一番の楽しみになった。

先生はいつも優しく、わかりやすく丁寧に教えてくれた。
隣にいる先生にドキドキしながらも、そのおかげで志望校に合格できた。

憧れの気持ちがどんどん大きくなり、気持ちを伝えようか迷ってい時期もあったが、その頃の私には大学4年の先生は遠い存在だった。

個人的な連絡先の交換は禁止されていたせいで、結局その後は会うことはなかった。

*****

あれから5年。
私は23歳になっていた。

何人か彼氏ができたことはあったが、先生を忘れたことはなかった。
憧れの先生の表情や声ははっきりと覚えていて、他の人を好きになってもどこかで先生への気持ちが残っていた。

『芙美ちゃんもこのセミナー参加してたんだね』

相変わらずの優しい声。
気持ちをすべて持っていかれそうなくらい惹かれる視線。

やっぱりあの頃のままの先生にまた心が動いてしまいそうになる。
ドキドキしている気持ちを悟られないよう、平気なふりをした。

「はい、お久しぶりです」

『俺、ずっと芙美ちゃんに会いたいって思ってたから…』

「私も会いたかったです」

無意識に言葉が出ていた。

『良かった…』

うれしそうに微笑む先生の顔がまぶしすぎて、思わず目をそらしてしまいそうになった。

『この後時間ある?』

「はい!あります」

『敬語じゃなくていいのに…』

「なんか…クセで。急には変えられません…」

『じゃぁ徐々に…』

これからもずっと会おうと言われているみたいでうれしくなった。

近くのカフェで2時間以上話をした。

ずっとこのまま一緒にいたい気持ちはあったが、時間制限でお店を出た。
すでに日は沈み暗くなっていた。

「じゃあそろそろ…」

帰りたくない気持ちはあったが、そう言ってみた。
先生の様子をうかがおうと目を見た瞬間、先生が私の手を掴んだ。

『帰っちゃうの?』

「えっ?」

『俺とじゃ…いや?』

言葉の意味はわかっていた。
返事をする代わりに先生の手をぎゅっとつかんだ。
駅と反対方向へ歩き出すと、そこからはずっと無言だった。

*****

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