今はまだ騙されていてね (Page 5)
その後シャワーを勧められ、お言葉に甘えて先にシャワー使わせてもらった。その間洗濯機を回したりシーツ替えたりしてくれたのか、シャワーから上がるころにはベッドはきちんと整えられている。しかしながらそこで眠くなったのか、先生は小さく寝息を立てていた。
学生の時にはもっと大人に見えていたんだけれど、寝顔は本当にあどけない。
実は言うほどのことでもないかと思って言っていなかったが、ヴァージンはヴァージンでも
セカンドヴァージン
だったとはまだ言ってない。絶対初めてだと思ってたよね。ごめんね、先生。先生が学校に赴任してくるまでに彼氏いたんだよ。聞かれたことないから言ってなかったけれど。
といっても赴任してきた先生を好きになって、彼氏と別れてから一途に思ってきた。単純に男の人を受け入れるのが久しぶりすぎて、痛かっただけで。ローターをあっさりと飲み込むあたりで気が付きそうだけれど。
気が付かないふりしてくれてんのか、ガチでそう思ってるのか年上ってそういうところあるよね。前の彼氏も年上だったけど。
「…美琴、わり、寝てたか?」
「んー、大好きだよ、先生」
「こら、また呼び方戻ってる」
「はーい、東吾さん」
目を細めて優しく頬を撫でられる。それが心地よくてそっとその手に頬を寄せる。
「疲れたろ、美琴は寝てなよ。俺もシャワー浴びてくるから」
「うん」
横になったベッドからは真新しいシーツの匂いと男物の香水の匂いがかすかにした。まあ、洗面所にあったから偶に使ってるんだとは思ったけれど、私といるときはその匂いしないんだよなぁ。あれかな、前に香水より柔軟剤とかの匂いが好きだとか言ったからかな。
それとも別の理由でもあるのか…
「どうした、難しい顔して」
「うわっ、びっくりした。ううん、ちょっとレポートの誤字ちゃんと直したかなって…」
「小論文は何度でも見直せって学生の頃教えたと思ったんだけどな」
「いや、はは。ちょっと煮詰まって、上手く展開できなくて時間がね、足りなくて…」
しどろもどろと言い訳する。嘘、実はびっくりするぐらいいい展開思いついて時間むしろ余った。
「全く、仕方ないやつだな」
先生には言ってないことが私にある様に、多分先生も私に言ってないことが沢山あると思う。まあそれがはっきりしたころには名前呼びもできるようになっている頃かもしれない。
今はまだ何も追及しないでいよう。
だから先生もまだ何も気が付かないで、騙されていて。今まで好きになった人の中で一番好きなのは嘘じゃないから。今はまだ騙されてて。
「なんか言ったか?」
「ううん、何も言ってないよ」
私は少し笑って甘えるように先生の胸にすり寄った。
Fin.
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