泣かせて溶かしてお召し上がりください (Page 5)

億劫だったけど軽くシャワーを浴びてまだ乾き切らない髪を拭きながら、聞いてみた。

「なんで、避妊具も買ってきてるの?」

「俺も男なんでね、備えあれば憂いなし」

怒った方がいいんだろうか。無駄に準備いいのが腹立つ。

「やめなくていいって言った時点で合意でしょ。後、そんな拗ねた顔してもかわいいだけだから」

「ばかっ!はずみとはいえ好きでもない女とか」

きょとんとした顔の後、笑われた。何がおかしいのか分からず、私はぽかんとした顔をしていたと思う。

「確かにはずみもあったけどさー、千早って一目惚れとか信じる?」

急に話の論点が変わり、はぐらかされている気がしたけど考えてみた。信じてるとも信じてないとも言えない。したことがないからだ。今のところの答えは

「半信半疑かな。一目惚れなんてしたことないし」

「千早の泣いてる顔に一目惚れしたとか言っても信じてくれる?かわいいも言った。あれ?思った以上に伝わってなかったっぽい?」

びっくりして声が出なかった。私にとっては衝撃の真実といっても過言ではない言葉にキャパオーバーを起こし、完全に思考停止した。冗談とは思えない空気、こちらも冗談はやめてなどと言い出せない。なんとも気まずい空気が部屋に満ちる。

「いやマジ?」

小さなつぶやきがやたらめったに大きく聞こえた。

「なんか、ごめん…」

「うわ、信じられない位鈍いな。お前は男を俺を何だと思ってんだ?恋愛の回路しっかり繋いどけ。めっちゃ手ごたえ感じてたのに、実は思わせぶりなこと言ってみただけの営業先みたいな。散々気を持たせてあんまりな仕打ち」

「たとえが生々しいな。そんなことあったの?」

「あったよ!仕事でも。てか今まさにその瞬間!でもかわいいよ、好き!」

なんかすっごいどさくさでえらく雑な告白だな。そっかー、そっかー。

「そうね、要検討ということでこのお話は持ち帰らせていただいて、十分に検討吟味させていただきます。返答は後日連絡いたしますので。期日は近日中としか申し上げられません」

「服着たとたん仕事バージョンかよ。そーいや、まだ、笑って泣ける系の映画観てなかったな。それじゃ、また何回でも泣いていただいて素直になっていただきましょう」

「やだよ、明日絶対に目が腫れる。これ以上は絶対に嫌!」

「ご心配なく、ドラッグストアにて購入したアイスピローもご用意がございますよ。お茶もご用意ございます」

少し赤くなってしまった目元にそっとキスが落ちた。

Fin.

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