大型犬みたいな先輩は「待て」を聞かない (Page 2)

聞けば家が同じ方向で、先輩も歩いて帰るつもりだったみたい。
私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる先輩と他愛もない話をしている間も、握られたままの手が熱くて、お酒とは違う理由で頬が赤らんでいくのがわかる。

ふと会話が途切れて、私はたまらず足を止めて口を開いた。

「あの、手…」
「手?」
「いつまで握ってるのかなって」
「だめ?」

握られた手にぎゅっと力が込められて、思わず先輩を見上げると、酔っ払っているせいなのか少し潤んだ瞳で私を見つめられていた。眉尻を下げ、首を傾げる先輩はやっぱり可愛くて、あるはずのない耳と尻尾が見える気がする。

黒目がちな先輩の瞳はなんだか熱っぽくて、その熱に当てられて、気づけば口を滑らせていた。

「…先輩のこと好きだったので、こういうことされると期待しちゃいますよ」

一瞬、驚いたような顔を見せた先輩に腕を引かれて、私はその胸に飛び込む。

「ちょ、先輩っ」
「今は?」
「え?」
「好きだったなんて、過去形にすんなよ」

先輩の言葉で身体中が火照る感じがして、顔を上げられないでいると、耳元で囁かれた。

「俺も期待していい?」

*****

さっきよりも少し早歩きになった先輩に手を引かれるまま先輩の家へ。部屋へ向かうエレベーター内では私も先輩も一言も喋らず、自分の心臓の音が耳について離れなかった。

本当は『先輩も私のこと好きだったの?』とか『そんな素振り見せなかったのに』とか、聞きたいことや言いたいことはたくさんあるはずなのに。玄関扉を閉めた先輩に後ろから抱きすくめられたら、頭も身体も甘くとろけていくようで何も考えられなくなる。

「ごめん、ちゃんと話したいことはあるんだけど」

吐息混じりの低くて熱っぽい声が耳に吹き込まれ、その声にすら、ぴくりと反応してしまって恥ずかしい。

「今は俺に抱かれてくんない?」

背中で感じる先輩のぬくもりに期待しっぱなしの私には拒む理由なんてなくて、返事の代わりに向き直って触れるだけのキスをする。初めは触れるだけだったのが、深いものに変わるのに時間はかからなかった。

「ん…ふ、…んぅ」

私が漏らす吐息ごと飲み込まれそうな激しいキス。先輩の熱い舌は私の歯列をなぞり、上顎をくすぐる。舌を絡め取られて吸われ、合間に唾液を飲み込むのに一生懸命になる。

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