舌 (Page 3)

そのまま先生と女子生徒は絡み合うように行為に及び始めた。
挑発的な目をしている先生は初めて見た。
学校でも噂になっていたが、先生は私以外の生徒にも手を出していることは知っていたが、
今回の件は意外だった。
去年卒業した先輩は、たまに苦虫を噛むような表情をしていたが、この件を知っていたのだろうか。

「先生、ごめんなさい」

女子生徒の謝る声だけが聞こえてくる。
悪い行為をしているかのような、力ない声だった。

――私は怖い物を目撃している。
見てはいけない物だと思う。

挑発されてはいけないと、どこかで怯えている。
神様なんでもしますから、この場から逃がしてください。

すると、チャットアプリの通知音が鳴った。
【今日は帰りなさい】
隙を見て先生が送ったようだった。

私がそのまま立ち尽くしていると、先生が笑ったような気がした。
ゆっくりと身体を部屋から遠ざけた。
足は固まってしまって動かないが、上半身と腕の力のみで、手すりに捕まりなんとか、片足一歩を進めた。

“冷静になれ”と自分に言い聞かせて、冷静に普通の歩幅で歩いた。
そして後ろに先生がいるのではと思うと寒気がした、そっと自分で自分の肩を抱いた。

――どうか、夢でありますように…。
その願いは叶わないものだった。

*****

次の日、チャットアプリに先生からの通知はない。
いつも用がある時しか連絡は来ないけど、こういう時は何故か待ってしまう。
授業をサボりたい欲求を抑えて、自分に言い聞かせる。
こんなにも授業が恋しい日はない。

どうか普通の大学生活に戻ってほしいとさえ思った。
どこかで、先生に捨てられたくないという欲求があったのだと、自分の気持ちに気付いて吐き気がした。
いつ終わってもいいような適当な関係を望んでいたのに、なんでこうなったのだろう。

私から連絡を入れるのは“シャク”だったけど、どうしても我慢が出来なくって通話ボンを押していた。

「先生、会いたいです…」

私は素直にならなければいけない、だって本当にあの時の気持ちが何か整理しないといけないから。
時々、普通にセックスをしていた時のことを思い出してみる。
先生は完全にMだと思っていたし、こんなことをされるとは思ってもみなかった。
“精神的な支配下”にある状態ってこんな感じなのかと思った。
専攻している心理学がこんな所で活かされるなんて、なんて皮肉なのだろう。
ただ、セックスでは感じられないような、高鳴りを感じた。

*****

「俺と別の子が“している”のを見て、どう思ったの?」

私が優位な立場だったはずなのに、どうしてだろう。
セックスをするだけの関係で、言葉を交わすことは少なかったはずなのに、今日の先生はかなり冗舌だ。

今まで溜めていた物をすべて吐き出すかのような先生の態度に困惑する。
今までのことはすべて演技だったのだろうかというようは別人ぶりだ。
ただ、そんな先生が嫌いではない、でも支配されるのはごめんだ。

「…正直、辛かったです」

そう私は素直な女になろうと思う、だって今の状況を理解できるのは、私だけだから。
いっそ、簡単に捨ててくれと思うぐらい、緊張状態だった。
素直な女は演じればいい、先生は私をバカな女だと蔑んでいるだろう。

「じゃあ、わかってるよね?」

先生の挑発的な表情に背筋がゾクゾクした。
しかし、不快な感じはしない。
いっそ、これが性的な興奮なのではないかと、昂揚感が身体を駆け巡っていた。

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