恋することを許されない運命。許婚との結婚前夜、一夜限りの夢を…。 (Page 3)
乱れた呼吸を整えながら、快感の余韻に浸り込んでいると、恭平さんの顔が静かに近づいてきて…私は瞳をそっと閉じた。
ちゅっ、と、ほんの一瞬だけ、唇にやわらな感触。
あぁ、これがキスなんだ…。
熱いものが込み上げて、喉の奥の奥がキュっとなって、思わず涙が零れた。
『キスはしないって、言ったくせに…』
「なんで泣くんだよ」
『だって恭平さんが初めてキスしてくれたから、嬉しくって…』
「やっぱり変な奴」
(…ずっと、一緒にいられたらいいのに)
喉まで出かけた想いを、言葉に紡がずグッと飲み込んだ。
夢のように幸せな時間が、儚くも終わりを告げた。
*****
『ありがとうございました』
「なぁ…お前は何がしたかったんだ?お前、ほんとは処女だろ」
『気づいて…ましたか…』
「あぁ、途中から違和感あったから」
『初めてとか言ったら、重たいかなって思って…あの、私…明日、結婚するんです』
「…は?」
『こどもの頃から決まっていて…父の会社を守るために結婚するんです。会ったこともない人と。だから誰も好きになるな、恋人も作るなって、そう言われて育ちました。でも…』
「…」
『でも、私には無理でした。恋って残酷ですね。初めてあなたを見かけた時、私、勝手にあなたを好きになってしまいました。名前も知らなかったのに。恋なんてするつもりなかったのに』
「なんだよ、それ…」
『明日から好きでもない人に抱かれて、会社のために子供を作ってって、考えただけで耐えられなくて…でも結婚からは逃げられない…だからせめて初めての夜は好きな人と結ばれたかったんです。身体だけでも…』
「…そんな事情があったなら言ってくれれば…誰とでも寝る軽い女なんだと思って俺、あんな乱暴にお前のこと…」
『いいんです!私は今日の思い出があれば、この先どんなに辛くても頑張れるから。ありがとうございました。大好きです。さようなら。』
普通に、恋をして。
いつしか、結ばれて。
普通の女の子みたいに、誰かを想いたかった。
ただ、普通がよかった。
それ以上のことなんて、望んでいなかったのに…。
あなたといたいと、あなたがいいと、心がこんなにも求めているのに…。
それは許されることのない願い。
Fin.
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