甘い男友達は豹変する (Page 2)

映画を観終わって外へ出るとほんのりと冷たい風が頬を撫でる。
外はもう暗くなっていて、夏の終わりが近づいているせいか少し肌寒くなっていた。

ふと腕時計に目をやると22時を少し過ぎていた。

「遅くなったら聡さん心配するよね」

「聡は真琴さんが一緒だから心配してないですよ」

「俺は安全圏ってか…」

突然グイっと私の腰に手を回すたくましい腕があった。

「え…!?」

「ごめんね、ずっと我慢してきたけれど…もう無理かも」

そう言うと、真琴さんは私の腰に片手を回しながらもう片方の手で顎を持ち上げた。

キスされる…!と思った私が顔を上の方に反らすと首筋から耳へと這うように下から上へ口付けされる。

「ふぁ…っ!ぅんっ!」

思わず甘い声が漏れる。
ぎゅっと結んだ私の下唇を優しくついばみながら、唇に舌を這わせてきた。

「んっ、んんっ…」

腰を抱いていた手が腰のラインをそっとなぞり始める。

「ふぁ…っ!」

ようやく離れた唇にやっと息を吸い込むことができた。

「紡ちゃん、俺…」

ヴヴーッツ!ヴヴーッツ!
私のスマホに『聡』の文字が浮かび上がった。

慌ててメールを確認した私は何かを言いかけた真琴さんを振り返る。

「…なんでもない!今日は聡さんの所へ返してあげる」

そう言って私を離した。

なんだか狐に化かされたような気になる。

何事もなかったかのように立ち上がって先を歩く真琴さんの背中を見つめながら後に続く。
今にもフワフワの尻尾と尖った耳が生えてきそうな気がした。

*****

今日が雨でよかった。

じゃなきゃ、こんな酷い顔で歩けない…。

家からとっさに飛び出してきてしまったから財布もスマホも忘れてきた。
大雨なのに傘さえも持ってきていない。

外が大雨だと室内にいてもわかるはずなのに聡は追いかけても来ない。

とりえず人目を避けるように屋根のついたバス停のベンチの端っこに座る。

全身びしょ濡れの白い服の女性が、ほの暗いバス停にいる様子はホラーそのものだと思う。

これからどうしようか考えていると…。

「紡ちゃん!!」

聞き覚えのある声に顔を上げると、目の前に真っ黒のSUVが停まっていた。
そして、その車の窓から真琴さんが驚いた顔でこちらを見ている。

私は急いでベンチから立ち上がりその場から去ろうとした。

「紡ちゃんって!待って!こんな大雨なのに傘もささないでどうしたの!?」

グイっと後ろから腕を掴まれ、真琴さんの大きな傘の中に捕まった。

「…」

「なにかあった?」

何も答えない私を真琴さんは後部座席に乗せた。

「冷えると風邪引くから、羽織っておいて」

私が素直にジャケット受け取ったことを確認すると、そのまま車をどこかへ走らせる。
車の窓についた無数の雨粒は、街灯の光が当たってキラキラしていて綺麗だ。

真琴さんの匂いのジャケットは不思議な安心感があった。

そして、私はいつの間にか心地よい車の揺れに誘われ眠ってしまった。

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