1番気持ちいい四十八手の体位 (Page 5)

セックスの後、どうして脱力したようにベッドに横たわってしまうものなのだろうか。リコはぼんやりと考えながらも、隣に横たわっている彼の腹部を撫でる。白い腹部はジム通いのため鍛えられており、ちょっとだけ固い。

「…情事の後、スマホいじるのってマナー違反じゃないっすか?」
「情事って、昭和かよ」
「平成生まれですー!ほんっと店長は、情緒ないですよー」

ベッドで横になる店長のスマホを覗き見る。大きな画面の中には、男女が絡み合うイラストが表示されていた。ついリコは、くはっ、と笑ってしまう。

「なになになに?四十八手のこと調べてたんです?」
「そりゃ、時雨茶臼?とか意味わかんないの言われたらな。何があんのかなぁ」
「店長、勉強熱心ですね」
「大学生に言われるなんて光栄だな」

大学生なのも、あと残す期間は少しだけだ。就職してしまえば、今のように会えなくなる。リコは少しの寂しさをはらませながら、彼が見ている画面を横目に、彼の腕をぎゅうっと抱きしめた。

「おいおい、何だよ。ニ回戦か?」
「…違いますよー。ほんっと、情緒なーい…」
「じゃあ今日みたく、また俺に教えてくれよ」

え、とリコは顔をあげる。

「48手もあるんだろ?じゃあ残すとこ、47?あ、今日2個やっちまってるなら、あと46手か?」
「…全部試すつもりなんすか!?え、店長体固いじゃないですか!」
「お前だってそんな柔らかい方じゃねぇだろ。まぁそこは、長い人生でなんとかしてくんだよ。江戸時代の新婚夫婦みたく体つったーとか言いながらなぁ」

新婚夫婦。長い人生。
リコは、きっと彼がそんなつもりはないとわかっていたが、つい顔が火照るのを感じ取る。将来的に彼が別れようと思わないだろうとはわかっている。付き合う時も、年の差を理由に断られそうにもなった。付き合うからには相応の覚悟が必要とも彼が言っていたのは、未来を見据えた上でだ。

(恥ずかしい。就職ごときで、離れるのが寂しいなんて)

リコと彼はこれからも一緒にいる。彼から未来を諭され、リコは幸福感に満たされる。

「次は、店長の気持ちいいって思う体位でしましょっか?」
「おう、今度はもっとすごいのがいいが、まぁおいおいな」
「どっちです?それ」

リコは他愛ない彼との会話に笑みをこぼし、そっと彼に寄り添い続けた。ベッドは温かく、彼のそばだと心地よかった。

Fin.

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