姫と騎士は想いと身体を重ね合う

・作

隣国の王からお見合いの話を受けているアトレスタ王国第一王女のエルシア。親衛隊でありずっと傍にいた騎士レオンに見合いは受けないという話をしていると、なんとレオンから愛の告白をされる。双方ともに想い合っていたとわかったエルシアとレオンは、自然と唇を重ねていた。

「なにが愛しき我が麗しの君よ!反吐が出るわ!」

アトレスタ王国の第一王女、エルシアは怒りのままに手に持っていた手紙を床に叩きつけた。

高価であろう羊皮紙に書かれたその手紙を拾い上げたのは、エルシア親衛隊の隊長であり、エルシアを幼いころから守ってきた騎士レオンだった。

「エルシア様……なぜ、そのようにお怒りなのです。パージェス王国はこの鉱山に囲まれたアトレスタと違い、緑豊かで農作物も豊富に採れる国だと聞いていますが」

「パージェスの外道なまでの労働環境のことを知らないの?そんな国の王と結婚したらどうなると思う?私たちの国だって劣悪な環境を強いられるに決まっているわ!」

怒り心頭な様子のエルシアは、窓の外から見える自国の山を見る。

このアトレスタ王国は、宝石の採掘で財をなす国だ。

その隣国、パージェス王国は広い国土と川、穏やかな気候を持つ農業が盛んな国だった。

そんなパージェスの国王はまだ妃がおらず、互いの国の発展のためにエルシアとお見合いがしたいと申し込んできたのだ。

「お見合いしたいって言ったって、私のこと片田舎の鉄臭い国の姫って呼んでるの知ってるんだから!誰がそんなことを言う王と結婚するもんですか!」

姫らしからぬ暴言を口にするエルシアにレオンは深い溜息をつき、拾い上げた羊皮紙を丸めてテーブルの上に置いた。

「国を想うエリシア様のことですから、この見合いをお受けになるものと思っておりました」

エルシアはふん、と酷く面白くなさそうな顔をして答える。

「あらレオン。幼い頃から私のことを見守ってきた割にはわかってないわね」

「王と同じく荒々しい気質をお持ちの方だとは、よく存じておりますよ」

「その父王の血を継ぐ私が、民衆のことを考えず自身の利益のみを追い求める下種王と結婚すると思って?」

「いいえ。ですがお見合いをするとなれば、私は正気を保っていられませんでした」

言葉を詰まらせるエルシアだったが、レオンは続ける。

「このレオンがエルシア様の隣にいる権利を永遠に得たいと申したら、いかがなさいます?」

エルシアは驚き、その美しい青色の瞳を見開いてレオンを見つめる。

レオンは親衛隊ということもあり、エルシアと常に共にあった。

恋心を抱かれているような素振りを全く見たことがないレオンから、愛の告白とも受け取れる言葉が出てきたのだ。

「……レオン。あなた、それは本心?」

「エルシア様に嘘をつかないと、あなたが10の時に誓わされたのですが、お忘れで?」

レオンは真顔で歩み寄るとエルシアの手を取って跪き、その手の甲にキスをした。

「あなたが幼い頃よりずっとお慕いしておりました。本来ならばこのような慕情を抱くこと、到底許されるはずもありませんがどうかお許しください。お見合いの話をお断りされるとお聞きして、このレオン、心の底から喜んでおります」

鋭いレオンの眼差しがエルシアを射抜く。

ずっときょとんとした顔をしてレオンの話に耳を傾けていたエルシアだったがついに笑い出し、レオンの指先を握った。

「レオン、あなた本当に私を幼い頃から見ていたの?」

「……と言いますと?」

エルシアは屈んで、レオンと同じ目線になると、柔らかな手の平でレオンの顔を包んだ。

目を潤ませているエルシアに驚くレオンだったが、エルシアは強気な微笑みを浮かべて告げる。

「私だって幼い頃からあなたのこと、ずっと慕っていたのよ。どうしてもっと早く言ってくれなかったのかしら」

言葉を失った二人はしばし見つめ合い、気付けば唇を重ね合わせていた。

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