疲れ果てた私の目の前に突然優しい元カレが現れて…

・作

仕事で散々な目に遭い疲れ果てていた梨紅(りく)のアパートに突然現れたのは、大学生のころ付き合っていた元カレの大雅(たいが)。甘やかしすぎて人をダメにしてしまう大雅だけど、梨紅は流されてしまう。

「おかえり、梨紅。もうすぐご飯できるよ」

「なんでいるの…?」

私は思い切り間の抜けた返事をした。

今日は職場でかなり理不尽な目に遭った。主任に私のプレゼン内容を丸ごと盗まれたり、他人のミスを押し付けられたりして、沈んだ気持ちで重い身体をひきずって一人暮らしのアパートに帰ったところに、いるはずのない人間がいたのだから。

どういう訳か、3年ほど前に別れたはずの元カレ・大雅(たいが)がキッチンで料理をしていた。

「なんでって、梨紅が辛そうだったからね」

エプロン姿の大雅は大学生の頃とさほど見た目が変わっていない。少し長い黒髪に赤みのさした頬をした、人の良さそうな丸顔。絵に描いたような純朴で人畜無害そうな青年だ。

「辛そうだったって何、なんで私の家知ってるの?」

喉が枯れて上手く声が出ない。

「少し前に、オフィス街でたまたま見かけたんだけど… すごく暗い顔をしてたからね。気になってしばらく見守ってたんだ」

大雅は優しい声で語りかけてきた。

「心配になったから合鍵を作って入ってみたら、部屋はぐちゃぐちゃだし…。まぁとにかく座ってよ。ご飯できたから」

最近疲れすぎて頭が上手く働かないせいか、目の前の異常事態に対処できない。

ローテーブルの上に野菜のゴロゴロ入ったリゾットとトーストが置かれた。人に食事を作ってもらったのは、一体いつぶりだっただろう。

大雅は優しい。昔からそうだった。だけど、優しすぎたり尽くしすぎたりして人をダメにしてしまうところがある。加えて結構な束縛したがりだ。
就活の頃の私は、それが怖くなって強引に別れてしまったのだ。

(元カノの家に合鍵作って入るとか…ありえない、犯罪じゃん)

理性ではそう考えても、とにかく私は疲れていた。温かい料理と優しい言葉に抵抗なんてできなかった。

「いただきます…」

一口食べてみると、涙が出るほど美味しかった。

「ううっ、おいしいぃ…」

「よしよし、辛かったんだねぇ」

大雅が私の頭を撫でる。ふわりと甘い、大雅の体臭を感じた。
私は何を意地を張ってこの人と別れたんだろう。この頃ストレスであまり眠れていなかったんだけど、気がついたら眠ってしまっていた。

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