獣の夜

・作

梨花は義理の父親である義之のことを愛していた。義之もまた同じ思いであった。そんな時、梨花の母が突如この世を去る。もう何も障害のない二人であったが義之は梨花に触れようとはしなかった。しかし母親の1周忌の夜に―。

「おとうさん」が私の部屋に入ってきた。

いつかこんな夜が来るとは思っていたが母の1周忌がその日になるとは思ってもみなかった。

私と「おとうさん」…義之さんは血のつながりがない。

私が16歳の時、母は私を連れ立って義之さんと再婚したのだ。

初対面の時から私は義之さんを父親ではなく男性として好きになった。

それだけなら、はしかのようなもので時が過ぎれば溶けてなくなってしまうであろう泡沫の思い。

…なのだが問題は義之さんも私のことを娘と見られなかったことだ。

もっともどちらにせよ私も義之さんも母のことだって愛していたし家庭を壊す気などなかった。

私が就職なり結婚なりして家を出てしまえば終わってしまう程度の感情だ。

私は自分にそう言い聞かせていた。

*****

私は大学卒業を間近に控えていた。

就職先には遠方の地の企業をあえて選んだ。

だが、突然の母の訃報。

こんなことがあるのだろうか。

死にかけていた義之さんへの情念が再び頭をもたげてきた。

それは義之さんも同様だった。

ただ、悲しくもあわただしい1年の間その感情は失せていた。

*****

だが今夜。

私の上に義之さんがいる。

ベッドがふたり分の体重できしんだ音を立てた。

「1年待ったんだよ。梨花。その間お前は逃げようともしなかった。私の思いに応えてくれると思っていいよね」

義之さんは余裕のない様子で早口にそう言うと、私に口づけた。

「んん!」

あまりにも急なことに混乱して、義之さんから逃れようともがいたけれど、彼は巧みに私の身体を拘束する。

身動きすら取れない。

唇を割って侵入してきた義之さんの舌が私の頬粘膜を舐める。

くすぐったい。

もがくとキスはもっと深いものになった。

舌の裏を舐めまわされる。

ぞくぞくと背筋が粟立つ。

「―!」

義之さんの手がパジャマの上から私の胸をまさぐる。

形を確かめるように私の胸周りを円を描くようにして触る。

その手が腹を、腰をなぞって、私の股間で止まった。

「んん、んう」

私は頭を振って義之さんのねちっこいキスから逃れた。

「―梨花」

義之さんの拘束が緩んだ。

「もうやめて。私やっぱりこんなこと良くないと思うの。「おとうさん」」

「梨花」

「気持ちはどうであれ、私と貴方は親子でいるべきだわ。死んだお母さんに悪いもの」

義之さんの目が昏く光った。

「気持ちはどうであれ、か」

義之さんの手が再び私の腕をつかんだ。

「いやっ」

「感情を無視してすでに形だけの親子ごっこを続けられるほど私は禁欲者じゃないんだよ」

首筋を義之さんの舌が這う。

「あうっ。だめ」

「愛しているよ。梨花。お母さんを愛したように。お母さんを愛した以上に」

その言葉に私の胸はカッと熱くなる。

やはりこのひとを好きなことを否定できない。

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