「沢山可愛がってあげるからね」って麗しい御曹司に言われて、断れる女の子なんて何人いるんだろう
雅樹の家に長年仕えているメイドの莉音。ある時雅樹が留学することになり、雅樹の友人である慎一に「うちに来ないか?」と言われて…。イケメンで少し強引な年下の御曹司に、「君は僕のモノだからね」って言われてみたい全ての乙女に贈ります。
客室を開けると、慎一様が嬉しそうに微笑んだ。
「莉音、久しぶり」
胸が高鳴るのを気が付かれないように、頭をさげる。
「いらっしゃいませ。慎一様」
「雅樹は今日、遅くなるのかな?」
「今日は会食の予定があると伺っております」
「なら、雅樹が帰ってくるまで僕に付き合ってよ」
「…はい」
広い客間に2人きり。
心なしかいつもより声が響く室内。
「莉音はここに来て、何年経ったっけ?」
「高校を出てすぐなので…もう10年近いでしょうか」
「そっかぁ。初めて会った時には僕まだ学生だったもんね」
初めて会った時はまだあどけない少年だった慎一様。
気が付いた頃には、背を抜かされて。
どんどん大きくなるのに、麗しさは少年の頃のままだった。
「雅樹の留学の話は、もう聞いたんだよね?」
「はい。以前からお伺いしておりました」
「ねぇ、莉音、もし君が良ければ…うちに来ないか?」
「えっ…。慎一様のお屋敷へ?」
慎一様のお屋敷へは、お使いで何度か足を運んだことがある。
「雅樹には話をしてあるからさ、考えてみてよ」
慎一様は私の手を取って微笑んだ。
笑顔も、優しさも。
初めて会った時と何一つ変わらない。
「あの、雅樹様は何と…?」
以前から留学の話になる度に、『悪い様にはしないから』とだけ言われてきた。
まさか慎一様のお屋敷で働くことになるとは夢にも思っていなかったけど。
「『慎一なら安心だ』って」
「左様でございますか」
確かに、他のお屋敷で働いてみるのも悪くないかもしれない。
ボーッと考えていると、急に肩を抱かれた。
「で、莉音はどうなの?」
「えっ…あの」
「僕のうちに来るのは、嫌?」
慎一様の澄んだ瞳に私が映りこむ。
整った顔がやけに近くて、意識してしまう。
「いえ、嫌なんてそんな…」
「ホント!?本当だね?」
「えぇ、勿論です」
「やった!」
ギュッと抱きしめられて、思わず息を飲む。
ドキドキが止まらない。
止まってくれない。
「…あの、慎一様?」
「あぁごめん。嬉しくってさ」
無邪気な笑顔に、胸がキュンとした。
「勿体ないお言葉を…」
ありがとうございますと言いかけたその時。
唇に温もりが伝わって。
私はそっと目を閉じた。
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