甘い夜にスパイスを

・作

恵美香と佐伯は、高校生の頃から続くカップル。15年目にもなると、穏やかな日々がひたすら続いて、あんなに燃え上がったあの頃が嘘のよう。そんなマンネリを迎えたカップルの少しだけスパイシーな甘い夜をのぞいてみましょう。

ときめきって、何処に落ちてるんだっけ。
あんなに燃え上がった炎は勢いをなくし、文字通り風前の灯火だ。

僅かに感じられる温かさに縋(すが)って、高校生の頃から気が付いたらもう15年。
今更春なんて来るはずもなく。
けれども冬を一人で耐えられるわけもなく。

「今夜も残業かなぁ…」

帰らない佐伯を待ちながら、広い部屋で独り膝を抱えたその時。
いつもは鳴らないスマホが、鳴った。

*****

「大きいお風呂って、久しぶりですね」
「佐伯は本当お風呂が好きよね…」
「そうそう。最近ゆっくりお風呂に浸かれるほど時間もなかったですし」

電話の主は佐伯で、「急いで出て来い」って言うから来てみたらラブホに連れ込まれた。

都内に数えるほどしかない露天風呂付きのラブホは佐伯のお気に入りだ。
歓楽街の真ん中にあるから、時折罵声や歓声が聞こえてくるのは残念だけど、大きな外風呂と内風呂を2人で満喫できる。

「静かにゆっくり…という訳にはいかないですけどね」

佐伯の手が伸びてくる。
久しぶりの緊張感。

何もかも捧げあった仲なのに未だに慣れない。

「場所柄仕方ないよね」

気が付かないふりをして背中を向けた。
耳が熱いのは、お風呂のせいだろうか。

「でも、たまには良いですよね」

そう言うと佐伯は、私を後ろから抱きしめた。

「そろそろあがる?のぼせちゃうよ」
「私、長風呂なんです。ご存知でしょ」

耳元で囁かれた。
無駄に良い声。
この声に弱いことを、私はまだ佐伯に言えないでいる。

「ほら、ちゃんと温まらないと」

佐伯に促されるままに肩まで浸かると、マッサージが始まった。

「あぁ…気持ち良い」
「恵美香は最近忙しかったから、酷いことになってますね」
「そんなに?」
「えぇ、ほら、ここ痛いでしょ?」
「ぎゃっ」

思わず変な声が出てしまった。

「それ、何?」
「何って押しただけですけど」
「ゴリゴリって凄くない?」
「毎日メンテナンスをしないからですよ」

佐伯は、肩から腰そして脚と、丁寧にマッサージをしてくれた。

「あぁ~気持ち良い」
「随分ほぐれて来ましたね」
「本当?ありがとうね」

体がポカポカと温かい。

「ほら、ここも、感度があがったでしょ?」

そう言うと佐伯は、指先で乳首をなぞった。

「んっ、何してるのよ」
「何って、マッサージですけど?ほらここも血行を良くしないと」

乳首を摘ままれ扱かれる。

「あっ、ダメ、ねぇ、声出ちゃう」
「さっきまであんなに声を出してたじゃないですか」
「あれはマッサージでしょ?」
「『あぁん、気持ち良い』なんてラブホから聞こえて、マッサージだと思う人がどれだけいますかね?」
「ん~、それは確かにそうだけど…」

でも、やっぱり。
すぐそこに人が通ってると思うと恥ずかしい。

「嫌なら声を我慢することですね」

佐伯に言われて、必死で指を噛んで声を押し殺す。

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