その指輪を外すとき

先月、私は8年間を共に過ごした旦那と離婚した。

別に夫婦仲が悪かったわけではない。

確かにここ数年はレス気味であったものの、大きな喧嘩もしたことがなかった。

だけどある日、旦那からこんなことを言われてしまったのだ。

「ごめん。俺には奈緒より大切な人が居るんだ。その人は俺が居ないとダメみたいだし、その…その人のお腹には…」

私はそれ以上聞きたくなくて、彼が続きを言う前に返事をした。

「わかりました。離婚しましょう」

人によっては声を荒げて文句を言うかもしれない。

もしくは感情のままに手を出すかもしれない。

でも私は何も出来なかった。

ただただ、ショックでどうしたらいいか分からなかったのだ。

まさか真面目な彼が不倫をしていたなんて…。

さらに不倫相手との間に子供まで作ってしまうなんて…。

夢だったら良かったのに。

でも私の知っている彼は、嘘を言う人ではない。

結局、私は慰謝料を貰うことを条件に、彼との別れを決めたのだった。

自分にとって大事な20代を彼に捧げた。

子供だって欲しかったけど、彼が昇進してから考えたいと言うから、その時をずっと待っていたのに…。

でももう仕方がない。

泣いても、暴れても彼が戻ってくるわけではない。

しかし私は、未だに結婚指輪を外せずにいる。

それは私がまだ受け止めきれていない何よりの証拠だ。

結婚していたときは嬉しくて毎日眺めていたプラチナの指輪も、今は虚しさしか感じないのだった…。

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少しずつ1人の生活にも慣れてきた頃…。

親友の侑美から、出会いの場として有名なバーに一緒に飲みに行かないかと連絡があった。

侑美はずっと独身で、30代には見えないほど綺麗な顔立ちとスタイルを持ち合わせている。

どうやら侑美には結婚願望はないようで、遊んでいるのが丁度いいようだった。

今回も遊び相手を見つけたいのだろう。

それに比べて私は、つい最近バツイチになったばかりの女。

こんな私を相手にしてくれる人はいるのだろうか？

ふと部屋にあった鏡で自分の姿を確認してみるとそこにはクマができて、痩せこけた自分が映っていた。

昔と比べて、見るからに老けてしまった…。

昔の私はもっと綺麗で、たくさん笑っていて、楽しそうだったはずなのに…。

果たしてこのままでいいのだろうか？

このまま女としての楽しみや喜びを味わうこともなく、1人で生きていく？

そんなのは嫌だ…。

まだ決して遅くはないはず。

もう一度、誰かの温もりや愛を感じたい…。

たとえ一夜限りでもいいから。

私は侑美の誘いに乗ることを決めた。

ならまずは少しでも昔のように綺麗な自分に戻らないと。

私はパンッと両手で自分の頬を叩き、気合を入れた。

こころなしか、鏡に映る自分がさっきよりも晴れやかになっているような気がした…。