両片想いを知らなかった私をお仕置きする、強気な幼馴染の彼 (Page 2)
子供の頃から鈍くさい私を面倒見てくれていた力哉くんは、そりゃもう女の子にモテた。
何せ、顔も良ければ歌も上手いとくれば、人気にならないわけがない。
音楽でプロ入りするんじゃないかって話は高校くらいから上がっていて、特別な彼の特別になりたがる女の子は本当にたくさんいたのだ。
そこに幼馴染とはいえ、みそっかすな私の出る幕などあるはずもない。というか望んだことさえなかった。
力哉くんのことは好きだったけど、元々尊敬というか憧憬の念が強かったから、いつか彼の横に自分とは違う誰かが並ぶところを想像しても、多少胸が痛むくらいで。
いわば、好きなアイドルの熱愛報道くらいの感覚で、受け止める自信があったのだ。実際、彼は芸能人になったわけだし。
しかし、彼は誰ともソウイウ関係にならず、私とも友達の距離感を変えないでいてくれた。
となると、近づいてきてくれた彼を、みそっかすの私がはねのけるわけにもいかない。
話しかけられた日は天にも昇る気持ちになりながら、私は十年以上叶いもしない片想いを続けてきたのだ。
その十年を、力哉くんはまったく違うモノとしてとらえていたらしい。
*****
「え、だって別に…好きとも付き合おうともあの…そんな話になったことないよね…?」
恐る恐る訊くと、力哉くんはキッとまなじりをつり上げた。どうやら地雷を踏んだらしい。
「…ある」
「え、いつ!?」
「幼稚園の頃、嫁にもらうっていったじゃん。そのときに佳乃が結婚式でファーストキスするのが夢とかいうから、人がケナゲに諸々我慢してれば…!」
「…それは」
私は跳ね上がった肩を落として、思わず拍子抜けしてしまった。
そんな、覚えてもいられないような頃の話をされても…でも、力哉くんにそんなこといってもらってたら、さすがに覚えてそうなものだけど。
「疑うわけじゃないんだけど…本当にそんな話してた?」
「してたの。で、俺はそのときから佳乃の彼氏のつもりだし、何ならうちの家族もそっちの家族もその認識のはずなんだけど」
「えぇ!?何それ!」
「何それ、はこっちの台詞だよ…」
がっくりとうなだれた力哉くんに、私はかける言葉も見つからない。
でも、そんな…手を繋いだりハグしたことは確かにたくさんあったけど、それは幼馴染の距離感ゆえだと思っていたし。
言葉も、キスも――その先も何もなしに恋人だって思えというほうが無茶では。
内心で呟いたつもりが、一部はそのまま不満げな言葉として出ていたらしい。
力哉くんの目の色が変わった。
「…へェ、キスもその先もしていいんだ?」
にじり寄られ、私は本能的に後ずさった。
だが、力哉くんが覆いかぶさるほうが早かった。
「いっとくけど、佳乃の夢だっていうから、俺はずっと我慢してきたんだからな」
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