口説かれるタイピング
タイピングが早い、PCの扱いがうまいなど、人と興奮材料が違う女、賀来あかり。タイ1、タイ2とランク付けまでするほど。楽しみの一人であるタイ2が寿退社。それだけでも不満なのにある物までなくしてしまい…そんな中、一人の男性社員が異動してきた。指先は第一関門クリア!どうなるこの先。
「男が寿退社って」
お気に入りのタイ2が会社を辞める(タイはタイピング、2とはタイピングの軽快度順位)。
ちょっと指が短いのがアレだったけどトン!とenterを弾く音にほどよく癒されてた。
彼女がいたっていい、結婚したっていい。
「…なにも辞めなくたって」
「辞めませんけど?」
ってわたし声出てた?!
「は?…誰?」
思わず素で対応した!それでなくても感じ悪いと噂されてるのに。
「驚かせたなら申し訳ありません。本日付けで企画部に異動になりました、佐藤です。これ渡すように言われていた書類です」
「ごめんなさい、考え事していたとはいえ失礼でしたね。私は、賀来あかりです」
立ち上がり頭を下げた目線に映る彼の指先、スラっとしているのに関節は程よくあって。指だけなら理想に近い。
「楽しみにしています…はっ!」
「?」
「は、はは、し、仕事!早く慣れるといいですね」
(ついでにタイピング、早いと嬉しいなーなんて)
訝しげな視線を軽く受けながらも背中を向けた彼を見つめる。振り返った彼の口元が笑った気がしたのは気のせいだろうか。
*****
私の目に狂いはなかったみたい。彼のタイピングテクは確かで、頼んだ書類も的確かつ最速。
あっという間に女子も、目にも止まらぬ速さはもちろんのこと、繊細なタッチに注目している。
(嫌だな、なんか)
(他の女子が、佐藤くんに向ける熱い眼差しにモヤモヤしてる)
(…こんな時こそあれ!休憩がてら手帳チェックしとこ…って、は?)
(手帳がない!どうしよう!)
「…賀来さんちょっといいですか?」
(こんな時に!佐藤くんをまともに見れないじゃない)
「な、何でしょう?」
「これなんですけど…」
急に小声になる佐藤くんに、嫌な予感しかしない。勿体ぶるように赤の何かを一瞬だけ見せる。
「そ、それ…」
どう答えるべきか悩んでる間に、佐藤くんが課長に呼ばれていなくなる。
それからというもの中々話しが出来ず悶々とするあかりを見つめる佐藤に、あかりは気付かない。
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