魅惑の香りに乱される夜

・作

仕事が忙しく、ストレスで頭痛がちな燈子。たまに行くバーでカウンターで隣に座った男性と話が弾み、目が覚めたら連絡先とホテル代だけおいてあって。ワンナイトにすべきかと考えたけど、ホテル代を返すという名目で連絡することに。年上の男性に導かれた新しい世界とは…

好きで就いた仕事だから、別に仕事が嫌いなわけじゃない。でも忙しさにも限度っていうものがあって、好きだからこそストレスになる場合もある。仕事だといって割り切れるほど達観もできてない。就職して4年、20代も半ばになりこのままでいいのかと思い始めている。

ただストレスのせいか最近頭が痛い。
頭が痛くなると息抜きに行くバーのカウンター席に座って、グラスを磨くバーテンさんに話しかける。

「頭がすっきりする系のカクテルってあります?」

「すっきりした味でしたらいくつかご用意あります」

すっきりしたカクテルかぁ。つきんと痛みが走り軽く頭を振った。何にしようかメニューを見ながら迷っていると不意に隣い座っていた人が

「こちらのお嬢さんにスクリュードライバーを」

と私の方を見た。右目の涙ぼくろが柔和な印象を与える人だった。初めて見る人だ。じっと見つめていると

「一杯ごちそうさせてください。美味しいですよ、ここのスクリュードライバーは」

と困ったように微笑まれた。バーテンからすっと差し出されたカクテルはさっぱりしたオレンジ味がきいたカクテルだった。心なしか頭がすっきりした気がする。思ったことがそのまま表情に出ていたのか、嬉しそうにこちらを見ている。

「結構強いアルコールだから、一杯だけ。お嬢さんがほろ酔いで夜道を歩くのは危ないから」

「お嬢さんなんて年じゃないです。もう26歳です」

「俺も君ぐらいの頃はそう思ってたよ。世間では青二才もいいとこだったけど。30歳になってもそれはあんまり変わらないかもなぁ」

そこからお互い仕事のことや趣味の話をしてかなり話が弾んだ。彼は聞き上手で話し上手だった。いろんなことを話した気がする。気が付けば頭痛も忘れていた。

*****

スマホのアラームで目を覚ました。起床時間は7時15分でいつも通り。ただ、ここはどこなんだろうか…。昨日バーに行って、隣の人と話弾んで…、弾んで?だめだ、そこから記憶がない。ふらふらっとバーを出たのはおぼろげに…。テーブルにはお金と一緒に一枚の名刺が置かれていた。そういえば、名前聞いてなかったな。

『加賀見和志』

かがみかずしだろうか。何気なく裏を見るとスマホの番号が書いてあった。
その名刺を丁寧にしまい立ち上がった。シャワー浴びて、とにかく一度帰らないと。電車乗った覚えはないから駅前のホテルだろうし。家は駅の反対側だから、一度帰って着替えても間に合うはずだ。会社に近いマンションで本当に良かった。頭の中で時間を計算して身支度を整え始めた。

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