執事に夜の手ほどきしてもらってます

・作

財閥の令嬢である雅はとうとう具体的になって来た結婚の話を聞いて、執事の大河に『妻としての尽くし方を教えて』といい、毎週金曜日秘密の手ほどきを受けることに。なんとしても初恋にケリをつけたいと思うお嬢様と執事の甘い夜のレッスン。

毎週金曜日の夜だけはいつもより丁寧に髪をとかして、プレゼントのラッピングみたいなベビードールを纏う。メイド長あたりが見たら卒倒するかもしれない。でも、男の人はこういうのが好きだと教えてもらって、ネットでこっそり買った。

「それでは雅様、先週のおさらいから始めましょうか」

「よろしくお願いします…」

*****

約半年ぶりに外国から帰ってきた父。

「雅、来年の大学卒業後お前にはいくつか事業を任せたいと思う。ゆくゆくは一人娘のお前がこの財閥を継ぐにあたり、若い内に資質を見極めておきたい」

「はい」

父は仕事で忙しい人で、家庭をほとんど顧みない人ではあるが、財閥の当主としては卓越した人物なのだと思う。私も経営手腕については尊敬している。一人娘でゆくゆくは家の女主人となる私の能力にしか興味がないのも知っている。

「で、結婚相手なんだが、国際結婚でもこの際構わないな?」

「こ、国際結婚ですか?」

この際っていうか、どうせするなら国際結婚でいいなと言われている。

「最低限の教養としていくつかは語学も取得済みですが」

「相手は英語圏だ。先月の取引相手の息子だ。お前の6歳上で家柄も才覚も十分。お前の結婚相手として不足なし」

そう言ってる時点でほとんど決まった話なんだろう。これはもう卒業と共に結婚だ。事業を任せたいとかいうあたり、向こうが婿に来てくれるんだろう。

「はい」

父の意向には逆らえない。いつかは来ると思っていた話だ。それが今日だっただけで。話すべきことだけを話し終えると父は仕事に戻っていった。本当に私にも私の考えや感情にも興味がないんだろう。

*****

窓から夜風が入る。ぼんやりと月を見ながらため息を吐いた。それと同時くらいにドアがノックされた。

「入って」

「カモミールティーをお持ちしました。あまり夜風に当たるとお体に障りますよ」

一つ年上の執事の大河が小さいため息とともに窓を閉めた。大河は私が3つの時、遊び相手として家に出入りするようになった。長年うちに仕えてくれている執事長の孫で年が近い私の遊び相手に選ばれ、私が中学を卒業すると同時くらいに執事へとシフトした。唯一無二のパートナーと言える。

「大河はこの職業に就くことに疑問はなかったの?確かに私は貴方がずっといてくれて心強かったけれど、本当は他にしたいことがあったんじゃないの?」

「興味がないこともなかったのですが、将来当主の補佐をすることを前提にした興味でしたね。祖父を尊敬していて、いつかそういう人物になりたいとこの職業に就くことを決めました」

「…私、結婚が決まったわ。はっきりとはおっしゃってなかったけど、相手もほとんど本決まりね。大河、私に妻としての尽くし方を教えて」

それがたまたま金曜日の夜の事だった。

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