ウエディングドレスをハサミで切って
大学時代から付き合って4年になる彼の浮気が発覚した。職場の同僚だと言う。何も言い訳をしない彼に、別れを切り出したのは、わたしの方だった。ただし、1つ条件をつけて。「ウエディングドレスをハサミで切って」――彼と最後の夜をそこで、ドレスを切って過ごす。肌がだんだんと見えてくるなか、ただ切るだけでは終わるわけもなくて、なし崩しに、彼と交わっていく。
「ウエディングドレスをハサミで切って」
それが、わたしの提示した条件だった。
彼が浮気をしていることには、なんとなく気がついていた。
問い詰めたとき、彼はあっけなく浮気を認めた。
職場の同僚だと言う。
かわいいの?と聞くと、彼は静かに頷いた。
わたしより?
……。
別れたい?
……。
何も答えない彼に、わたしは、いいよ、と言った。
でも1つ条件がある。
ホテルの最上階を取った。
駅前の大きなホテルだ。
彼とは大学の頃から、付き合っており、今年で4年になる。
このまま結婚するのだと思っていた。
『ウエディングドレスをハサミで切って』
我ながらアホみたいな提案だったと思う。
なぜそんな言葉が口から出たのかもわからない。
彼は戸惑いながらも、静かに頷いた。
1ヶ月後にホテルを取るから、そこで、して。
まさか本当にウエディングドレスを切るわけにはいかないから、それっぽいドレスを探した。
白はなかったから、ベージュのマーメイドドレスを買った。膝丈の。
ウエディングドレスがベージュとは……。
わたしは夜景を映す窓ガラスに反射する自分のドレスを見て、思わず笑いをこぼした。
そのとき、ドアが開いた。
彼だ。
わたしに合わせてスーツで着てくれたらしい。
手には緑のグリップのハサミが握られている。
まさか、ハサミを握ったままここにきたの?
そのことにさらに、笑みが溢れる。
「切っていいの?」
彼が部屋のドアを閉める。
「そのために来てくれたんでしょ?」
おいでおいで、と彼を手招きする。
おそるおそる彼は近寄って来た。
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