童貞社長と夜のお勤め

・作

若手社長、太刀川隆太(たちかわりゅうた)の秘書を務める花巻莉々子(はなまきりりこ)。ある日の仕事終わり、社長から呼び止められた彼女は頼み事をされる。その内容は「僕の童貞をもらってください」という、驚きのもので。見た目は雄々しくも中身はピュアな童貞社長と、筆下ろしの濃厚セックス。

「花巻さん、ちょっと…」

本日の業務報告を終えて退勤しようとしていた私に、太刀川社長は遠慮がちに声を掛けてきた。

「はい?」
「非常にプライベートなお願いになるので、仕事とは完全に切り離して考えてもらいたい話なんですが…」

太刀川隆太氏は、株式会社コネクティベーション代表取締役社長。大学在籍中の21歳で会社を立ち上げ、設立3年目の現在まで順調に業績を伸ばしている。若手起業家にありがちなラフで自由な雰囲気ではなく、幼少期から柔道で鍛えてきた肉体をスーツで包んだ硬派な出で立ちだ。

「実は常々、自分の人生経験に不足があると感じていまして…」

秘書である私の方が7つ年上であることを気にしてか、社長はいつも丁寧な言葉遣いだった。アクティブで向上心に溢れ、学歴やその他の経歴も申し分ない。コミュニケーション能力がずば抜けて高いわけではないが、体育会系の気質は年長者にも気に入られやすい。いったい何に不足があるというのだろうか。

「何か新たなことに挑戦される…とかでしょうか?」
「新たなことと言いますか…その…僕、ど…童貞なんですよね」

話の急展開に驚いた私は、文字通り目をぱちくりと瞬いてしまった。確かに社長には、いわゆる「女の影」はない。学生時代は学業や部活動に明け暮れ、起業してからは仕事一筋で過ごしてきたようだった。

「最近、以前にも増して様々な方と交流する機会が増えまして…」
「そう、ですね」
「それで、その…まぁ、男同士の会話といいますか付き合いといいますか…それに乗り切れない自分が、少し恥ずかしくて不安で…」

話の流れは見えてきた。この先に予想される展開は2つ。童貞を卒業するための相手女性を見繕ってくれ、あるいは、私にその役目を務めてほしいかだ。

「口の硬いプロの女性に依頼をかけましょうか? 必要でしたら、私の方で社長の好みに合いそうな方をお探ししますが…」
「いえ、それは無しの方向で…初対面、というのはどうにも苦手でして自分は…」

赤面しながらも私を真っ直ぐと見つめてくる社長の視線は、実に純粋で情熱的だった。これまで私の中で「年下」「童貞」というのは性的対象からは外れていたが、真摯に熱意を向けられれば、案外悪くないような気がしてきてしまう。

「つまり、それは…」
「花巻さん、僕の童貞をもらってください」

どうか、御指南を宜しくお願いします。思いがけない展開だが、社長に頭を下げられては無碍(むげ)に断るわけにもいかない。承諾の返事をかえした私は、興奮と背徳感が入り交じる不思議な気持ちを抱えて、社長室をあとにしたのだった。

*****

「ンッ…ぁ…」

数日後、都内のラブホテルにて。オレンジ色の柔らかな間接照明に、緊張した面持ちの社長が照らされている。よく鍛えられたその肉体をそっと撫でながら、私は社長の唇に自分のそれを重ね合わせた。

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