恋愛未遂のワンナイト
花村絵美はいつものように出社し、仕事の準備を始めた。しかし、上司から声を掛けられ紹介されたのはヘッドハンティングされてきた結城大祐(ダイスケ)だった。過去に一度だけ夜を共にした彼。思い出すのはその夜の出来事。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
私はいつものように出社して同僚に挨拶を交わし、仕事の準備を始める。
いつもの光景にいつもの行動だった。
しかしそんな日常はすぐに変わってしまったのだ。
(なんで?なんでここに居るの?)
*****
「花村さん!ちょっといいかな?」
「はい!課長、どうかしましたか?」
仕事の準備をしていると、後ろから声を掛けられた。
椅子から立ち上がり振り返ると、上司の斜め後ろにいるもう一人の姿に目を丸くした。
「今日からうちで働くことになった結城大祐くんだ。君につくわけではないが、年も近いようだし今から社内の案内をしてくれるか?」
急ぎの案件も無いようだし…と続けられたが、課長の言葉は殆ど耳に入ってこなかった。
「よろしくお願いします。花村…絵美、さん」
大祐の声に一瞬、ぞくっとする感覚が戻ってきた。
「…は、初めまして…よ、よろしくお願いします…」
ちゃんと笑顔で取り繕えているだろうか。
社内の廊下を二人で歩く。
また顔を合わせる、ましてや肩を並べて歩くことになるなんて思わなかった。
*****
彼との出会いは半年ほど前だった。
その日は大きな仕事が片付き、一人で打ち上げと称してバーに入った。
お店の前は何度か通り気になっていたバーだった。
「いらっしゃいませ」
薄暗い店内にはボックス席には二組ほど、カウンターには一人だけ座ってる。
何処に座るか迷っているとマスターが声を掛けてくれた。
「こちらへどうぞ」
ほっとして、案内された端の席に座る。
「初めてですね。普通のカクテルもありますが…お好みを言っていただければ、オリジナルカクテルをお作りいたしますので」
「じゃあ…フルーティーなものの方が好み…ですかね」
承知しました、とマスターがシェイカーを振りはじめた。
シャカシャカというリズミカルな音が耳心地いい。
そんな音を堪能しているとカウンターに居た一人の男性が声を掛けてきた。
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