アイドルの彼と心から愛し愛されて

・作

ごくごく普通の一般人である私・サチは、アイドルグループの一員であるカオルくんと関係を持っていた。一目惚れから始まった、夢のような恋。時間のある時は足繁くホテルへ通う日々。今日もいつもと同じようにホテルに入ったのだけれど、なんだか彼の様子がおかしくて…?

はじめて彼を見たとき、全身に雷が落ちたような衝撃が走った。

きれいにセットされたピンク色の髪と、コンタクトで染まるグレーの瞳。

起伏に富んだ端正な顔立ち。

派手な衣装が彼をさらに引き立てて、その存在を強調させていた。

そしてなにより、その声。

胸に響くハスキーな低音が、切ない恋の歌を紡いでいく。

——なんてかっこいいんだろう。

まさに一目惚れだった。

自分がまさか芸能人に一目惚れするなんて、思ってもみなかった。

そして、その彼・カオルくんと関係を持つことになるなんて、想像もしなかった。
 

*****

 
 
ホテルの部屋に着いたとたん、カオルくんに強引に腕を引かれてベッドに押し倒された。

普段はこんな乱暴なことはしないぶん、少しの恐怖を感じて、思わず小さく悲鳴をあげてしまう。

「ど、どうしたのカオルくん…?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」

バリトンボイスでそう声をかけられ、身構える。

「サチ、誰かと浮気してない?」

「…へ?」

どうして突然そんなことを…?

自分で言うのもなんだけれど、カオルくんとしかお付き合いもしたことがないような女なのに、私にそんな陰があるように見えるだろうか。

「どうしてそんなこと聞くの?私、男の人となんてほんとカオルくんくらいしか…」

そこではっと目を見張った。

「もしかして、この間会った時にスマホ見た?」

「ああ…あんまり乗り気じゃなかったんだけど、たまたま通知に男の名前が出てたから、つい気になって」

カオルくんはバツが悪そうにしながらも、少し不満そうな表情で私を見下ろしてきた。

彼がそんなことを気にするような人だとは知らなくて、勘違いをさせてしまった申し訳なさと、カオルくんが嫉妬をしているのだという事実に嬉しさが入り混じった、複雑な感情が沸き上がってくる。

カオルくんが見ただろう男の人の通知は、幼なじみからの連絡だ。

同窓会の案内を送ってくれただけで、連絡事項と最近のお互いの様子を少しだけ報告しあった、ただそれだけのこと。

カオルくんはそれを心配していたのだ。

「あのね、あれは幼なじみで、同窓会の案内をしてもらってから少し近況報告をしあってただけなの。浮気だなんてそんなこと絶対にないから、安心して?」

「…そっか」

「うん、ごめんね、勘違いさせちゃって」

私の言葉に、カオルくんはふるふると首を横に振った。

「いや、俺のほうこそ勝手に不安になって嫉妬して…サチに乱暴なことした。男として不甲斐なかったな。ごめんな」

カオルくんのこういうところが好きだ。

悪いと思ったことは素直に謝ってくれるし、私の話もちゃんと聞いてくれる。

こんなに性格もよくてかっこいいアイドルなんて他にいない、なんて気持ちすら湧いてくるような、完璧な男の人。

そんな彼を裏切ったりするなんて、考えられなかった。

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