好きです!沢田さん!
大学生である田辺さやは、痴漢から守ってくれた一回りも年上のサラリーマン、沢田誠二に一目惚れをしてしまい、何度も告白をしていた。しかし年の差があるからと断られ、ついに告白10回目。それならこれを最後にやめるから、一晩だけ恋人にしてほしいとさやは沢田に提案をする。それに対し、沢田は……。
「好きです!沢田さん!私と付き合ってください!」
「だぁーから何度も言ってるでしょ。ダメです」
通算10回目の告白は、やっぱり失敗に終わった。
だめかあー、とぼやきながらうなだれると、私、田辺さやが告白した相手、沢田誠二さんはポンポン、と私の頭を撫でる。
そういうことをされると期待してしまうからやめてほしいんだけど、数少ない沢田さんからのスキンシップなので何も言えない。
私と沢田さんの出会いは、通学途中の満員電車の中でのことだった。
同じ車両にいた私は、痴漢をされて何も言えずにいたのだけど、そこを沢田さんが助けてくれた。
さらっと痴漢との間に身体を入れて私の盾になってくれたのだ。
その時の沢田さんがもう私にはとってもかっこよく見えて、お礼をしようと思っても別にそんなつもりじゃなかったし、と一言だけ言ってその時は去ってしまった。
そのなんでもない感じに来てくれた緩いヒーロー的な雰囲気が、私にはとっても大人に見えて、一目惚れをしてしまった。
後日、なんとかして同じ車両内でまた沢田さんを見つけて、ちょっと強引にお茶に誘ってお礼はさせてもらった。
問題なのはその後。
話せば話すほど沢田さんに惚れ込んでしまった私は、思い切って告白をした。
私は現役大学生、沢田さんは一回りも年上のサラリーマン。
ワンチャンあるかと思ったけど、年齢差の関係で断られてしまった。
でも諦めきれない私は、何度も何度も沢田さんにアタックした。
だって、本当に嫌なら連絡先の交換だってしてくれないはずだし、何度もお茶を一緒にしてくれないでしょ?!
望みはあると思って何度も告白してるんだけど、ひらりひらりとかわされてしまう。
それが10回目ともなると、流石に能天気でもいられなくて、私はある提案を沢田さんに持ち掛けた。
「それなら沢田さん、一晩だけ恋人にしてくれませんか」
カフェテラスでスマホを見ながらホットココアを飲んでいた沢田さんは、ブフッと盛大にココアを噴き出した。
めちゃくちゃにむせるものだから背中を擦ってあげたけど、沢田さんはやんわりと私の手を遮ってくる。
「あ、あのねえ……ここは人も多いところなんだから、そういうことは言わないでほしいよ」
「何度も人通りの多いところで告白させておいて、何をいまさら」
「まるで俺が告白させたみたいな言い方やめてくれない?勝手に告白してきてるのはさやちゃんでしょ」
「だって沢田さん、本気で断ってこないじゃないですか」
改めてココアを飲む沢田さんは、なんのことやらと目を逸らす。
いつもこうだ。こうしてなんとなく期待を持たせて断るんだこの人。
いい年してブラックコーヒーが飲めなくて、カフェオレすら飲めないからココアを頼む可愛い人のくせに。
「この一晩で私、もう沢田さんに言い寄るのやめます。諦めますから、お願いします」
「え、やめるの?」
私の決意に、沢田さんは目を丸くする。だからそういう反応、やめてよね。期待しちゃうから。
「やめます。沢田さんにもご迷惑でしょうし。なので、思い出作りというか……私の最初で最後の我儘に、付き合ってくれませんか?」
私のいつになく真面目なトーンに、沢田さんはうーん、と顎の下に手を置いて、悩む素振りを見せる。
でも、返事が出るのはそんなに遅くはなかった。
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