終電を逃してしまったので…

・作

上司の藤井課長と日帰り出張をするはずだった優香。ところがちょっとしたハプニングで終電を逃し、近場にホテルもなく仕方なくラブホテルで一夜を過ごすことに。なかなか寝付けずにいると『眠れない?』と囁かれる。そんなつもりじゃなかったのに…年上の男性に甘やかされる一夜

「出張ですか?」

「日帰り。移動は電車と新幹線な。高浜には補佐として付いてきてほしんだけど、大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

そんなやり取りがあり、私は藤木課長と共に日帰り出張が決まった。
私の職場は小さなデザイン事務所。デザインといっても多岐にわたり、地方の小さなお祭りの広告からデパートのカタログといろんな仕事がある。仕事を取るのは営業である私たちの仕事。今までは近場ばっかりだったから、日帰りとはいえ出張は初めてだ。

*****

営業といっても新規ではなく、長くお付き合いのある会社だけ。私を連れて行ったのは補佐以上に顔つなぎみたいな側面もあることが判明した。今後いくつか引き継ぐこともあるだろうから、そのためにもご挨拶するのも仕事の一つだ。
日帰りのつもりだったのだ。

「もっと余裕見とけば…。まさかこんなに長引くとは思わなかった」

「新幹線の終電は無理ですね」

「とりあえず駅までは行くか。まだ私鉄とかは動いてるし」

今頃本当なら新幹線を降りて家に帰っている筈だったのだ。ところが最後の一件でなかなか納期の折り合いが付かず、気が付けばこの時間。どう考えてもこの時間から新幹線の駅に行ったら、確実に終電も終わってる。帰りのチケット買ってなかったのが良かった。キャンセル料は経費から落ちるか分からないし。
どこかシティホテルでも空いてないか、あちこち問い合わせてみた。しかし、満室かスイートないしデラックスダブルなら空いてるの返答しかえられなかった。某高級ホテルなんて空いてたとしても高すぎるし、後はもうラブホしか…。

「高浜はラブホとか嫌か?シングルでも泊まれないことはないだろうけど、店舗によるだろうし。嫌ならファミレスで夜明かしだな」

「…課長がラブホでもいいなら、それで」

それ以外選択肢がないんだよなぁ。力なく返事した私の頭をポンと撫でて、手を取り歩き出した。振りほどくも変だし、力を入れるのも違う気がして私も歩き出す。ネオンが眩しいホテルの重たいドアを藤井課長が開ける。おずおずと私もそれに続く。良かった割と空いてる。まあまあの値段の部屋を選び、古びたエレベータに乗る。

「そんなに固くなるな、俺も緊張する。気になるなら、俺がソファーで寝るから」

「え、いえ、課長がベッドで寝てください。ソファーとか体痛めますよ?!」

「その言葉そっくりそのまま返す」

エレベータ内では決着がつかなかった。廊下はしんとしていて思わず私達も無言になった。鉄製の重たい扉を押し開けた。

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