年下の男の子は甘くほほえむ (Page 2)
空き教室で声を押し殺して泣いているところに、タイミング悪く来たのが矢野君だった。
「先輩、何してるんですかこんなところで…。え、あー、だ、だめですよ、擦ったら腫れますよ」
当然、焦った顔をしていた。袖口で涙を拭っても拭っても新しい涙がこぼれてきて袖口は涙を吸って湿っている。
「ごめん、変なとこ見せて。…彼氏と別れたの。二股してたの知ってたし、私からフッてやればよかった。悲しいとかじゃなくて、悔しかった。ロクに知らない女に負けたのも、罪悪感なく私を騙そうとしたことも」
話してもどうにもならない。でも、自分では抱えきれなくて。誰かに聞いて欲しかった、自分の気持ちも整理しきれない何もかもを。
「泣かないで、先輩」
親指で涙を拭われ、そのまま口をふさがれた。突然のことに涙も止まった。
「ごめんなさい…」
そのまま逃げられた。その後避けられたのか顔すら見なくなり、自由登校になり卒業した。
彼は地方の大学に行ったとなんかの折に聞いて、もう二度と会うこともないと思っていた。あの日のキスが宙に浮いたままで。
*****
「…忘れたことなんてないっつーの」
誰と付き合っても、誰とキスしても、誰とそれ以上のことしても忘れられなかった。
渡されたメモを見る。連絡といっても、何を話せばいいのか分からない。あの頃はどんな話してたっけ、割と他愛な話もしてたはずなんだけれど思い出せない。
とはいえ『向こうの担当が高校時代の後輩でちょっと気まずい関係なんです。担当変えてください』などとゆとり発言が言えるはずもなく、
「こんにちは」
「こんにちは、どうぞお掛けになってください」
今日は今日で打ち合わせ。
淡々と仕事の話。そりゃ仕事の場だから当然だけど。社運がかかっているとまでは言わないけど、こちらも遊びやついでではない。そう、公私混同はしない、公私混同は…
「なんで連絡くれなかったんですか?」
「いや、それは仕事の話ではないので…」
「仕事の話はさっき終わったじゃないですか。今してるのは別の話です。なんで連絡くれなかったんですか?」
遠回しに勘弁してほしいといってるのもわかっていて、無視しているんだろうな。ちょっと見ない間に強かさを備えてきたのか。本当に勘弁してほしい。
「…何を言えばいいのかも、分からなくて。ねえ、私達あの頃、高校生の頃何の話してたかな」
「いろいろです。雑談もしましたね。明日の天気とか、最近読んだ本とか、授業のレポートのコツなんかも聞きましたっけ。もちろん、彼氏の話も別れた時も話しましたね。そういえば、もう定時なんです。先輩も直帰ですよね。付き合ってもらっていいですか?」
あの場でそこまで追い詰められてダメなどと言えない時点で私の負けだ。
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