可愛い彼女ができて浮かれていた俺の部屋に幼馴染が寝転がってて困る

・作

家が隣の幼馴染みのリマ。大学から帰宅して部屋のドアを開け、そこにリマがいることに今更驚きはしない。ベッドで無防備な薄着で寝ていようが、ムスコを撫でられようが、俺には付き合いたての可愛い彼女がいるんだ!言い聞かせていたものの…

俺は自室の扉を後ろ手に締めてつぶやいた。

渋い顔をしつつ脱ぎ散らかしたままのリマの靴下や上着を拾って歩く。

少年漫画をベッドの上に積み、一冊だけを片手に持って彼女はすやすやと眠りについていた。

リマとは家族ぐるみで仲が良い、いわゆる幼馴染みだ。

家が隣同士だからといって男女の幼馴染みなんて思春期を迎えるとさっぱり話もしなくなる。

そうやって疎遠になるもんだと思っていた。

でもいつだったか、爆発的に流行ったある漫画おかげで本の貸借という名目でリマは時々、お互いの部屋に隣接するベランダを越えて、この部屋に来るようになった。

今思えばきっとあれが悪習の始まりだった。

悪というからには理由があって、今日のように、なんの連絡も前触れもなく、突然やってくるのが常だ。

なんていうか…来ても大丈夫な時はむしろ来ない。

例えば、当時の彼女といる時とか、1人でエッチな気分の時とか、そういう時に限って入ってくる。

まるで図ったかのようなタイミングで、嫌がらせかと疑ったほどだ。

でもリマは全くの自然体で顔を赤らめ「ごめん!」と出ていくもんだから、怒る気もいつしか失せた。

高校卒業後、数年は侵入が途絶えていたとはいえ、再びリマがいたところで俺はさほど驚いてはいない。

「…ん、あー斗真?おかえりぃ」

以前よりさらに明るくなった髪色がよく似合っている。

寝ぼけまなこのリマは言いながら寝返りを打った。

起きる気はないらしい。

「ったく、来るなら連絡くらい入れろって」

「ん〜…そんなのしたことないぃ」

もう一度寝返りを打ったリマのスカートの裾がめくれ上がりそうだ。

「もう帰って。俺、出かけなきゃなんないし」

「いいよ、行ってらっしゃい」

ひらひらと手を振って見せまだ寝ている。

お前のせいでこの部屋には彼女が呼べないんだと言ってやりたくなる。

「ピンクの髪色した女が俺の部屋で寝転がってたら、親がうるせぇから帰れ」

「だって久しぶりに来てみたらさ、まだ読んでない漫画たくさんあるんだもん。おばちゃんにはちゃんと挨拶しとくって」

「…俺、彼女できた。うちの親にも紹介ずみの栗色ロング。だから、色々と都合が悪いの」

「え?彼女くるの?」

「来ないよ」

しばらく間が空いて、リマがむくりと起き上がった

「斗真…いつの間に?」

「1ヶ月前くらいに告られた」

告られてすぐ付き合うなんてと、からかわれそうで一瞬身構えたが、リマは視線を落とし「じゃあ、もう漫画読めないね」と呟いた。

なんだ、その顔…

リマが落ち込んだ顔を見せると、なぜだか俺はどうしても、放っておけなくなる。

「べ、別に、俺がいるときは来てもいいし…漫画は持って帰っていいんだし…」

するとリマはスススッとシーツの上を滑るように寄ってきて、耳元で後ろから囁いた。

「そしたら私、返しにきちゃうけど?」

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