きっかけは花粉症?!意中の彼と両想いラブラブエッチ

・作

私には意中の彼がいて、彼もたぶん私のことが好き。どっちも告白はしてないけどなんとなくわかるときってあるでしょ?そんな彼曰く「くしゃみの顔とイクときの顔って一緒らしい」って。びっくりさせてやろうと思って軽はずみに「試してみる?」なんて返したら、「試してみたい」って…?!

日の出の時間が少しずつ早くなっていって、あちこちで蕾がほころび、それらを喜ぶような鳥の鳴き声が聞こえる。何事もなく冬を乗り越え、暖かい春を迎えられたことを喜ぶ気持ちは私にだってある。ただ、喜びとは相反する気持ちを抱えているのもまた事実。
 
 「~~~っっくしょん、あ~!」
 
 100席程度の講堂での2限目。早めに来て一番後ろの窓際の席について早々、盛大なくしゃみが静かな講堂に響き渡る。おのれ花粉症め。私にとって春は、暖かくて心地いい季節であると同時に、この宿敵と戦わねばならない季節でもある。
 
 「はは、ひでーくしゃみ。おはよ」
 
 誰もいなかったはず、と驚いて声のする方を振り返ると、同期で同じサークルの陽太が笑っている。誰もいないと思って遠慮のないくしゃみをしたらこれだ。人がいるとわかっていればよそ行きのくしゃみをするのに。
 
 「花粉症つらそー。俺一生なりたくねー」
 「風邪みたいにうつせるもんならうつしてあげるのに、ハ、くしょんっ」
 
 尋ねるまでもなく左隣に座った陽太とくだらないやりとりで笑い合う。去年の春、入学したてのときに知り合ってから約1年。私は陽太が好きで、たぶん陽太もそう。気持ちを確かめたことはないけど。なんとなくわかるあの感じ。
 
 学生たちが集まり始め、開始時刻の少し前に老年の先生が入って来ると水を打ったように静かになる。先生の口調は穏やかそうな外見に相応しく柔らかで優しい。窓からの暖かい陽射しと相まって眠気を誘われ抗えず、頬杖を枕にする人や机に突っ伏している人もいる。
 
 これじゃ陽太も寝てるだろうなと隣を見やるとルーズリーフにペンを走らせていた。なんかごめん。私もうとうとしていないでちゃんとしよう。
 
 ふいに陽太がシャーペンの先で私が広げたテキストの上を叩く。ペン先は陽太のルーズリーフへ向かい、それを目で追って笑ってしまった。
 
 “くしゃみの顔とイクときの顔って一緒らしいよ”
 
 熱心に何か書いていると思ったらこれだ。普通に考えたらバカみたいでくだらないのに、可愛いなと思ってしまう。これが惚れた欲目ってやつ?笑いながら返事を書く。
 
 “ほんとかためしてみる?”
 
 視界の端で黒いシャーペンを握った手がぴくりと動いたのがわかった。ちらりと顔を見れば空いた手で口元を抑えていて、頬は薄っすら赤かった。カウンター成功!と機嫌をよくした私の手が陽太に掴まれ、ぐっと体温が近くなる。
 
 「試してみたい、咲と」
 
 もちろんその後の講義は何も耳に入って来なかった。机の上に転がる黒いシャーペンが意味もなく目に焼き付いていて、囁かれた吐息と温かい手の温度で頭の中がいっぱいだったから。
 

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