別れた元カレの部屋で二人きり。心の中で彼女に謝りながら今夜だけの関係を求めたら…

・作

「元カレには彼女がいる」そんな噂を聞きつけて、未練タラタラだった私は復縁を諦めた。ある日、合コンで酔ってしまい、お持ち帰りされそうな私の目の前に偶然現れた元カレに助けを求めた。終電を逃し彼の部屋にいくことになった私はお風呂でついつい居眠りしてしまい、無防備な私を見た彼の気持ちは揺れ動く。

「悠太!今日、家行く約束してたよね?」

別れてから1年以上たっている元カレの悠太。

大学のサークル飲みがあった帰り、同じく飲み会帰りらしい悠太にばったり会い思わず声をかけた。

酔っぱらっていた私は、仲がいいわけでもない男に肩を抱かれ、強引に送ってもらっていることに気が付いたのは、夜風にあたり酔いがだんだんと冷めてきたついさっきのことだ。

どうやってこのやたらと体格の良いこの男から逃げようかと焦っていた私は、偶然通りかかった悠太をとっさに捕まえたのだった。

別れてから一年、まともに視線すら交わさなかった悠太にすがるのは少々気が引けたが、このままだとホテルに引きずり込まれてもおかしくはない。

いちかばちかの賭け。もし悠太が無視すればもう逃げ道はなさそうだった。

「…ああ、今日来るって…言ってたね、うん、言ってた、言ってた」

おそらく私の必死の形相を見かねたのだろう。

私は一瞬のすきを見て男の腕から逃れ、悠太の手をつかんだ。

私たちは顔を見合わせ、お互いの連れに手を振った。

怪訝な顔で去っていく男に笑顔を向けつつ、小声で言う。

「ごめん、悠太。ありがと。助かった」

悠太も連れに手を振りながら笑顔を崩さないように言った。

『誰?あれ』

「飲み会の…よく知らない」

すると悠太は小さくため息をつきコツンと私のおでこをつついた。

『お持ち帰りされてんじゃねぇよ』

みんなの姿が見えなくなったのを確認して、改めて悠太の顔を見た私は、気まずさから、くるっときびすを返し、立ち去ろうとした。

すると、ふいに腕をつかまれ後ろへと倒れそうになる。

「わっ」

『けっこう酔ってない?終電まであと一分しかないよ』

「ほんと!?やばいっ」

走りだそうとする私をもう一度引き止めた悠太からふわっとお酒の匂いがした。

『ねぇ、じゃあほんとに俺んち来る?』

酔ってはいるが、私の頭の中は意外とはっきりしていた。

悠太の後ろをついて歩きながら、このまま家に行くなんていいのだろうかと考えていた。

というのも悠太を振ったのは私だったし、しかも理由は「他に好きな人ができたから」だ。

結局好きだと思っていた彼とは付き合うことはなく、体の関係だけで終わってしまい、そのあと私は悠太と別れたことを激しく後悔することになる。

何度となく連絡しようと思ったけれど、「どの面下げて?」という罪悪感と戦っているうちに、悠太に彼女ができたという噂を聞き、復縁をあきらめた。

つまり私は悠太に未練たらたらだった、のだ。

*****

一年ぶりの悠太の部屋は物が少なく片付いていて、大人っぽい雰囲気になっていた。

私と付き合っていたころは、ぬいぐるみやフィギア、二人のものがあふれていたから、まったく違う時間を過ごしてきたのが目に見えてわかるようで、やはり来るべきではなかったと再び自責の念にかられる。

「ごめんね、まきこんじゃって。ちゃんと始発で帰るし、襲ったりしないし。置き物だと思ってほっといてくれていいよ」

着替えてきた悠太はあきれたように笑うと、お風呂を沸かしてくれてふかふかのタオルまで渡してくれた。

そうだった。悠太ってこういう人だ。

きちんと整理整頓することも、タオルをふかふかに仕上げる方法も、悠太の方がよく知っている。

やっぱり悠太は私にはもったいない男だったのだ、とかみしめながら体を洗い、温かい湯船につかった。

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