官能小説を読んでいるのが男友達にバレました (Page 2)
「お邪魔しまーす。地酒じゃ足らないだろうから、お酒買ってきた。あとこれ、駅前の焼き鳥屋さんの。ねぎまが美味しいって有名なのよね。その他もろもろ。重いから早く受け取って」
「いらっしゃい。総菜とかいろいろありがと。出張から帰ったばっかで冷蔵庫ロクなもんなくて。もう買いに行くのも面倒で」
私からひょいと荷物を受け取る忍。大学の時の同じサークルでのキャンプをきっかけに仲良くなった。
よくつるんでいたからか付き合っていた彼氏に浮気を疑われたりもした。忍と縁を切らなきゃ別れると言われて、彼氏と別れたなんてこともあった(のちに彼氏の方が浮気していたことが発覚した)。
お惣菜を食べながら地酒を飲み、いい加減にほろ酔いになってきたころだ。
「相変わらず、読書趣味か?それ、文庫本だろ」
「え、ああ、うん。紙媒体がやっぱり落ち着いて。荷物増えるけど読みやすいし」
私の鞄から見えた書店のブックカバーを目ざとく見つけられる。書店のカバーはカモフラージュで、中身は例の官能小説だ。
「へー、面白い?読み終わったらでいいから俺にも貸して」
「や、やだ。これは私のお気に入り殿堂入りだもん。時々読み返したいから貸せない」
「タイトルは?書店で売ってるなら買うよ。そんな言う本逆に気になる」
墓穴を掘ってしまったような気がする。ここは無難な新刊のタイトルを言うべきか?でも内容がつまらなかった場合言い逃れができない。それとも賞を取ったやつ?だめだ、今回は好みとは違う本だ。逡巡してるのを怪訝そうに見ていた忍がパッと私の鞄から文庫本を抜き取った。
「あっ、ちょっ…!」
「タイトルはクローゼット遊戯。…官能小説だろこれ。こういうの興味あるの?」
「興味あるっていうか、雑誌で見て買ってみたら意外に面白くて…」
「美鶴は朗読上手かったよな。読んでよ、口止め料ってことで」
楽しみにしていた小説、秘密にしていた趣味。その両方を人質に取られ、私はしぶしぶ頷くしか選択肢がなかった。
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頷きはした、頷きは。女に二言はないですけど、
「何でこんな近いの?」
なぜか距離がめっちゃ近い。さっきまで目の前に座っていたのに急に隣にくるし。
「こうでもしないと絶対に過激なシーンは飛ばしそうだし。ちゃんと読んでるか確認するにはこの体制が一番おさまりが良かったんだよ」
思考は完全に読まれている。私が逃げないように壁際に追いやり、その隣に肩が触れるどころか半ば寄りかかる様に文庫本を覗き込む忍。重いわけではないけど、この至近距離は問題があると思うのだけれど。てかそんなとこいると読みづらい。
「仕方ねぇなぁ、文句はこれ以上は認めないから」
ふわりと膝に抱き上げられる。何か言おうとして忍を見ると、いたずらが成功した子供のような顔をしていた。そのまま目線だけで文庫本を読むように指示される。軽く深呼吸して表題作を読み始めた。
途中から主人公の名前が変わってる…?他は読みやすかった
ユ! さん 2024年5月3日