あなたと同じ夢を見る
山奥にある女子大学。付属の全寮制高校から進学した燈子と弥生は大学の学生寮でも同室で、気心知れた親友同士。家族以上の絆でつながる二人には秘密がある。禁断の関係に溺れてすべてを捨ててしまいたい衝動に駆られる二人。快感と秘密の先に二人が行きつくのは?
都内からは遠く離れた山奥の女子大学。外部入学の人もいなくはないけれど、どちらかというと珍しい。この女子大学に通うのは大体ここからほど近い付属の全寮制の女子高からの進学が多い。生徒のほとんどががいいところのお嬢さんというやつで
「若いうちから変な男と関係を持たれたりしたら困る」
というある種間違った方向への過保護が暴発した結果であり、山奥の全寮制女子高なら大丈夫と考えているのである。確かに寮の規則は厳しいし、起床も消灯も決まっていて、外出は帰省以外は認められない。長期休暇前は迎えの車が列をなすような学校。
家から車での送迎で通う人もいるにはいるが、家より気心知れたルームメイトとの方が心が休まると学生寮を選ぶ人が多い。
かくいう私もその一人だ。
「ねえ、燈子さん。私のバレッタ知らないかしら」
「昨日ベッドサイドの棚に置いてあったわよ。留めてあげるからじっとして弥生」
高校入学当初から同室の霧生弥生。大手製薬会社の社長令嬢だ。
「今度、燈子さんのおじいさまの米寿を祝うパーティー私も呼ばれたの。だからね、今夜は予定を入れないで欲しいの」
元々は生糸産業から始まり現在アパレルブランドの会長職である私の祖父。米寿を盛大に祝いたいという本人の強い要望で立食パーティー形式にするとは聞いていたけれど、親しくしている友人を把握されているのはちょっと怖い。
弥生がそういうこと言いだすのは大体そういう行事の前日だ。
「いいよ、欲しがりだね弥生は」
「嫌じゃないんでしょう」
楽しそうに笑う弥生。私の可愛い親友。今や家族よりも深く強い絆を感じている。弥生の柔らかい黒髪にバレッタを留めて、後ろからぎゅっと抱きしめる。
「ごめんね、弥生」
「いいのよ、こんな日がいつか来ると思っていたわ。それに卒業までまだ時間があるもの。ね、今は考えないでおきましょう」
おじいさまは自分の米寿を祝うと同時に私の婚約発表をする仰っていた。婚約者に会ったのは大学に入学して初めての夏季休暇の時だ。
20歳になったら婚約、卒業と同時に結婚はもうほとんど決まっていたし。今の時点で日取りも順調に決まりつつある。今更抗う気にもならない。だけど、弥生に申し訳ないと思う。弥生と一緒に世捨て人になって二人でひっそりと生きたい。弥生さえうんと言ってくれたらいつでも全部捨てられるのに。
でも弥生は優しいから。だから絶対にうんと言ってくれない。
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