最高の恋の手引き
職場では面倒見の良さから『姉御』と呼ばれ、恋愛の相談もよくされる弥生。的確なアドバイスであちこちでカップル誕生に一役買っているけど、実は自分の恋愛は苦手。ある日上司の竹下主任に飲みに誘われ、ついそんなことを零したら『じゃあ、俺が苦手克服に付き合うよ』といわれて…
少し年の離れた弟妹がいるせいか昔から面倒見がいいと言われた。多少世話焼きな性格であることは否めない。頼られて悪い気はしないし、慕ってくれるのは素直に嬉しい。
「姉御、相談があるんですけどお昼休みいいですか?」
「いいわよ。表通りのカフェで食べながら聞くわ」
「ありがとうございます!」
『姉御』という呼ばれ方はどうかと思っているが、悪い意味ではないのでそこまで気にしてはいない。仕事は仕事で甘えは許したくないので、それなりに厳しくすることもある。でも、フォローはしっかり。そういう所が結局面倒見がいいと言われるところだと思う。
持ちかけられる相談は恋愛相談が多く、私のアドバイスのおかげでうまくいったという子も何人かいるのは事実。百戦錬磨と言われていると知っている。
実際は百戦錬磨どころか百戦全敗。自分の恋愛となるとうまくいかないを通り越して下手といって差し支えないレベル。わざわざいうことでもなければ、姉御と慕ってくれる子たちの理想をわざわざぶっ壊すこともないだろうと言わないでいるだけ。
決して経験がないわけじゃない。それなりに恋人だっていたことがあるし、年齢なりに経験もある。とはいっても片手で数られるぐらいだけど。
当事者じゃないから言えることはいっぱいある。傍目八目という言葉もある。状況を分析するのは得意だけれど、自分のこととなるとポンコツ。今まで別れた男の言葉はこうだ。
「思ってたのと違う」
理想を押し付けられても困るというか、頼りになりすぎてもだめ、だからといって頼るのもだめ。周りにはいったい自分がどういう風に映っているのかが分からない。
別に男がいなくても一人でも生きていけると思われているんだろうか。私だってたまには他人に甘えたい日もあるんだけれど、そういうことを言うとさっきの言葉を言われる。ままならないものだ。
取り留めないことを考えていると直属の上司である竹下主任に呼ばれた。
「岡崎、先週のプレゼンとったぞ。頑張ったな。よっしゃ、ちょうど金曜だしお祝いに飲みに行こう。もちろん俺の奢り」
主任にそういわれて、お祝いならということで飲みに行くことにした。お店はもう予約しといたというので、ついていくとソフトドリンクが充実した居酒屋だった。注文したドリンクが運ばれてきたので乾杯することになった。
「プレゼンの成功おめでとう、乾杯」
「竹下主任のご指導のおかげですよ、乾杯」
コツンとグラスを合わせる。からりと氷が涼やかにグラスを鳴らす。ジンジャエールを飲む私の向かいで竹下主任がノンアルコールビールをあおる。これも意外だと言われるが、下戸だ。自分の限界は二十歳超えてから身に染みている。
「プレゼン頑張ってたからな、割と遅くまで詰めてたろ」
「任されたからには取りたいんで、頑張りました」
弾む会話、何を相談されるでもない、他愛ない話は落ち着いた。
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