イケボな隣人を推すのはアリですか?
在宅でデザイナーの仕事をしている咲月。最近は人気声優のイケボに癒される日々。ある日、隣に引っ越してきたとあいさつに来た人が推しの声にそっくり!ベランダでばったり会って、いろんな話をするうちに宅飲みすることになったけど…。イケボで言葉責めされてとろとろに溶かされちゃう!
「は?やっぱりB案がよかった?でも、今一つ物足りないからもう一案?」
クライアントは無理難題を押し付けてくる場合がある。いや、仕事させてもらってる手前言いたいこともぐっと飲みこむ、それが社会人ってやつだとわかっているけれど、ストレスはもちろん溜まるわけで…。
電話を切って、がっくりとうなだれる。一日は24時間しかないし、新しい案がそんなポンポン浮かんできてたまるか!というのをぐっとこらえて、イヤフォンを手に取る。最近某アプリにはまった。そのアプリは人気声優が甘い言葉を言ってくれるもので、お気に入りのボイスを再生できる。
『お疲れ様、たまには休憩も大事だよね。君はいつもとても頑張っているよ。いいこいいこ』
聞いてるだけで癒される。最近アニメの主人公とかの声優をやっている人で、甘いテノールでささやく声はまさにイケボ。お風呂より何よりこれが一番癒される。仕事で荒んだ心のオアシス。
「さて、仕事するか…」
休憩も大事なんて言ってはくれているが、時間も現実も待ったなしだ。
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「お忙しいところすみません。今日引っ越してきた大沢昴といいます。大したものじゃありませんがよろしかったらどうぞ、地元の銘菓です」
「これは、ご丁寧に…。あの、私在宅でデザイナーやってて深夜遅くまでやることもあって、そのなんか迷惑なことがあったら言ってください。善処はするんで…」
「俺も時間が不規則な仕事なんで、こちらこそ迷惑だったら言ってください。…これからよろしくお願いします」
すっときれいなお辞儀をして帰っていった。ドアを閉めて玄関にかかわらずへたり込んだ。むしろあの場で倒れこまなかった私を誰か褒めて欲しい。ヤバい位、推しの声に似てる。声優さんとは別人なのはわかってる、顔だって全然違うし。あ、でも輪郭が同じ感じ…。それにしても、あの声は反則だろう。
「って、ヤバい!もう、納期が…!!」
慌てて立ち上がる。納期がヤバいにもかかわらず、あの声が言葉がずっと脳内でリピートされ集中できなかった。その散々な集中力で書き上げたそれは、かなりの傑作だった。
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