左手の薬指からはじまるイケナイこと (Page 3)
週末の金曜日、一通りの家事を終えて、仕事帰りのリョウタと落ち合った。
「お疲れ様!久しぶりだね、メッセージくれてありがとう」
スーツ姿の少し大人っぽくなったリョウタに声をかける。
「ご無沙汰しております!お忙しい中ありがとうございます!」
相変わらず元気いっぱいで、そのハキハキとした声にはこちらまで元気づけられる。
週末で疲れているはずなのに、屈託のない笑顔が眩しい。
駅近くの居酒屋に入って、横並びのカウンター席に通される。
結露して雫が落ちるグラスに注がれたキンキンのビールで乾杯をした。
ググッと喉を鳴らし、渇いた全身にエネルギーを満ち渡らせる。
「やっぱ週末のビールは最高だね」
「へへ、そうっすね!」
子犬のようにまっすぐな愛嬌のリョウタは、久しぶりに会っているという緊張感を忘れさせてくれて、自然と話が弾む。
なんだか、『週末に待ち合わせて飲むビール』がそうさせるのか、キョウスケとの独身時代のデートを思い出した。
2本ずつ頼んだ焼き鳥がテーブルに並び、ハフハフと串の頭からかぶりつき頬張り味わう。
甘辛いタレがよく絡んでおり、より一層お酒が進む。
「で、相談ってどうしたの?」
会社を辞めてしまった私に何の相談があるのだろうか。
ずっと気になっていた話題をリョウタに振る。
「あ、そうでしたそうでした」
照ったタレが唇の端に付き、リョウタは慌ててそれを舌で舐めとると、改めて姿勢を正してマユミの方を向いた。
「実はマユミさんが辞めた後、僕も転職をしたんですよ。同じ業界なんですけど、今そこで営業アシスタントの方を募集していて」
「え!!辞めたの?!」
リョウタは熱心だったから、あの会社で出世をしていくものだと思っていた。驚いた。
「マユミさんが好きで一緒に働きたいからあそこにいたんですもん」
相変わらず可愛らしく懐くリョウタの言葉に胸がムズムズする。
「で、もしよかったらマユミさんとまた一緒に仕事できないかなと思って」
なんと。
久しぶりに私を必要としてくれる言葉を受けて胸が高鳴る。
自分の持てる力をまた発揮したい。
リョウタとも一緒に仕事がしたい。
営業ではなくアシスタントとして打診してくれたところにリョウタの気遣いを感じつつ、家に持ち帰って改めて返事をさせてもらうことにした。
正直、どんな条件でもやってみたいと今すぐにでも返事がしたいが、来週の金曜日まで待ってもらう。
キョウスケは心配するだろうか。それとも背中を押してくれるだろうか。
「そういえばあの案件はこんなトラブルがあったよね」、「今の会社はどんな感じなの」、「私たちがまた一緒に仕事するようになったらさ」…
退屈な日々から抜け出せるかもとなったからか、ワクワクが止まらない。
相手がリョウタだからかもしれないが、お酒も話もどんどん進んでいく。
やっぱりこういうのが楽しいんだよなあ。
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