裏垢バレして、処女卒業しちゃいました

・作

平凡で地味な事務員の犬飼萌香には、誰にも言えない秘密が二つあった。一つはネット上でえっちな動画配信を行っていること、そしてもう一つは処女であること。そんな秘密の趣味が後輩男子に気付かれてしまった挙句「じゃぁ先輩、俺と『処女卒業配信』しましょう」なんて言われてしまって…

「よし…準備オーケー、かな。変なもの、うつったりしてないよね」

ベッドを小さく軋ませた私は、目の前のテーブルに撮影用のタブレットを設置して電源をつけた。アイボリーと淡いピンクで統一されたこの部屋は、社会人になった歳から住み始めてもう五年になる。

「こんばんは~」

SNSの裏アカウントでライブチャット配信を始めると、コメント欄がどっと流れて挨拶で埋め尽くされる。配信を始めた頃は閲覧数もコメント数も二桁から三桁程度だったのに、いまや私は数万フォロワーを抱えるちょっとした有名人になっていた。

「今日のお洋服は、こんな感じ~」
「このパーカー、すっごい欲しくて…通販争奪戦、無事に勝利してゲットしました」
「可愛い? ありがと~!! あと、ルームシューズも新しい子です。こっちはプレゼントで頂きました、ホントありがとうございます~!」

ヘッドセットをつけて、私は画面に向かって一人でお喋りを続ける。時々コメントの内容を拾っては、質問に答えたり雑談を挟んだり。

「そう、これ。前の配信で教えてもらったお菓子。美味しすぎて箱買いした…嘘じゃないよ!」
「お酒? お酒はね、あんまり飲まないんですよね。友達とワイワイするのは楽しいけど、一人で家で飲むと…多分、なんか寂しくなって泣いちゃう」

「あぁ、でも配信中ならみんないるからいいね。次、ちょっと飲んじゃおっかな。度数低くて、そこら辺で買いやすいやつ。オススメあったら、教えてくださ~い!」

こうやってコメントを増やして、少しだけ『構ってちゃん』な雰囲気を匂わせて。いわゆる『身バレ』を防ぐため、ウィッグとマスクと濃いめの地雷メイクで武装する。

不自然にならない程度の加工フィルター、仕事には絶対に着ていかない服装。声だけはそのまま配信していたが、それだって普段よりもトーンを上げていた。

「もうそろそろ時間ですね。30分て、あっという間すぎる。いつも思うけど」
「今日はね、結構えっちなの着ちゃってるんですよ。だからパーカー脱ぐの無しで、続きは22時くらいにいつものサイトで流します」
「楽しみにしてた人ごめんね。頑張って、ぎりぎりまでファスナー下げてもここまで~!」

カーディガンやパーカーを脱いで、インナーをチラ見せするのがお決まりのエンディング。最近はこのSNSのガイドラインが厳しくなってきただけでなく、私の要領も良くなってきたので、上手いこと濁して別サイトの有料配信へと誘導している。

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