恋愛未遂のワンナイト (Page 2)
「初めて来られたんですね。待ち合わせですか?」
「い、いえ…一人です…何度かお店の前を通りまして、気になっていて…」
そんな会話を交わしていると、マスターからグラスを差し出された。
「もしよろしければ、ご一緒しても?」
「え、は、はい」
すっとその男性が隣の席に移動してきた。
動揺したものの、何となく話しやすさを感じた。
そのまま話を続け、酔いも回っていった頃には店内には私とその彼、マスターだけとなった。
「そういえば、この後何か予定は?」
男性が声を掛け、そのままテーブルの上にある私の手を握ってきた。
触れた手から急に嫌悪感が全身を回った。
「あ、あの…手…は、離して、いただけませんか…」
手を引こうにも、力が強くそれは叶わなかった。
身体だけ大きく仰け反り避けた。
「ご予定は?」
「…お客様、そろそろ閉店のお時間なのですが…」
いつの間にかカウンターから出ていたマスターが、タイミングよく声を掛けてくれる。
「マスター…タイミングだよ~俺今、口説いてるんだからさぁ」
「では、はっきり言わせていただきます。ここはそんなお店じゃないし、第一女性が嫌がっています。止めてください」
「はぁ?お前、客に向かってなんて口の利き方をしているんだ」
「お代は結構ですので、そのままお引き取り下さい。今すぐに」
マスターに掴みかかろうとした男性に私は叫んだ。
「け、警察を…よ、呼びますよ?いいんですか?」
警察、という言葉に怯んで男性は店の外に走って逃げて行った。
バタンと扉の音が聞こえると力が抜けて、カウンターにうな垂れてしまった。
「怖かったですよね…気が付かず、申し訳ございませんでした」
「い、いえ…私の不注意ですから。助けて下さりありがとうございます」
横に座ったマスターにそっと頭を撫でられる。
その手のぬくもりに安心すると涙が溢れた。
顔を上げられずにいると、マスターが椅子を回転させ向き合うようにさせた。
ビックリして顔を上げると頬を伝う涙を拭ってくれた。
そのまま彼の顔が近づいてくる。
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