不倫相手と別れた夜に出会った、優しい青年。名も知らぬ人との心癒やされる一夜。 (Page 2)
「離婚する気なんかない。でも私との遊びもやめたくない。そういう男だって、わかっていたのにね。さっさと別れちゃえばよかったのに。そうすれば……」
そうすれば、こんなみじめな気持ちにならずに済んだのに。
「もうこんな、馬鹿な真似は二度としないわ。疲れて、傷つくだけなんだもの。もうたくさんよ――」
思わずこぼれそうになった涙を隠そうと、私は彼から顔をそむけた。
「本当に好きだったんだね」
独り言のように彼が言った。
「え?」
「いるよね、そういう、どうしようもない男。あなたが優しくしてあげる価値もない男だよ、そいつは」
彼は優しく微笑んでいた。
私を見つめるまなざしが、私をあたたかく包み込んでくれるみたい。
まるで凍えた私をあたためてくれた、琥珀色のホットカクテルのように。
「でも、本当に好きだったんでしょう?」
「え……」
「恋をしていたのは、本当でしょう?心から誰かを好きになるって、とても素敵なことだよ。本気で誰かを好きになった、あなた自身までは否定しないで」
ああ……、そう。
確かに私は恋をしていた。
最初から報われるはずのない、愚かな恋だったけど。
三年間、ずっと、ずっと、あの人を想い続けていたんだ。
ずっと我慢していた涙が、とうとうあふれ出した。
まるで心の堰が壊れてしまったみたいに。
言葉も出せずにただぼろぼろと涙をこぼす私に、彼もまた、もう何も言わなかった。
ただそっと、私の肩を抱き寄せ、寄り添ってくれた。
そうして気が付けば、私は彼に抱かれていた。
都会の夜景を見下ろす、静かなシティホテルの一室。
清潔な夜具に包まれて。
ついばむような優しいキス。
まぶたに、ほほに、耳元に。
そして唇。
最初は軽く触れ合うだけ。
唇で唇をそっと撫でるような。
やがてわずかに開いた隙間から、するっと彼の舌先がすべりこんできた。
やわらかく熱く、とろけるような感触が、私の中に入ってくる。
「ん、う……」
吐息なのか喘ぎなのかわからないような、小さなかすれた声がもれる。
キスを繰り返すうちに、気が付けばふたりとも、生まれたままの姿になっていた。
「きれいだね」
ぽつりと彼がつぶやいた。
きれいなのは、むしろ彼のほうだ。
若々しい体はどこもかしこもぴんと張りつめて、しなやかで、熱い。
まるで体の芯でまばゆい炎が燃え盛っているみたい。
肩、背中、ヒップライン、そのなめらかな肌を私は夢中で撫でていた。
彼も、私の体をすみずみまで愛撫する。
唇が喉元から鎖骨、胸へと下りていく。
それだけで全身が震えるくらいの快感が走った。
男の手と唇が皮膚に触れるくらい、それこそ飽きるほど経験しているはずなのに。
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