年下の彼に魅せられた夜

・作

1年前から一緒に働いていた年下くんとひょんなことから話すことになり、一緒の電車に乗り込み急接近。全く意識していなかった彼に急な告白をされ戸惑ってしまうが、彼の魅力に一気に惹きこまれてしまい熱く抱かれる夜のお話。

「ただ今、電車は信号機点検の影響により、約30分遅れての運行となっております。お急ぎのところお客様にはご迷惑をおかけしており、誠に申し訳ございません」

電車の遅れを知らせるアナウンスを聞いて、綾(あや)がいったん列を離れるとバイト仲間の悠(ゆう)が向こう側から歩いてくるのが見えた。

『お疲れ様です』

「お疲れ様。今帰り?」

『はい。でも電車遅れてるみたいで、待ちです』

「悠くんも中央線?」

『はい』

そこから会話は始まった。

悠との出会いは1年前にさかのぼるが、2人きりで話すのはこの日が初めてだった。
最寄り駅が同じなことも初めて知った。
他のスタッフ同様に休憩時間に何度か話したことはあったが、2歳年下の20歳、専門学生ということ以外は彼のことをほぼ知らなかった。

バイトをはじめたきっかけは大学卒業後の就職活動に苦戦し、まずはいったんバイトで食いつなごうとしてはじめた。
コールセンターのオペレーターははじめて見ると楽しくて、なんだかんだと1年が過ぎていた。
プライベートでは大学時代の彼氏と2か月前に別れて、その後これといって気になる人もいなく毎日を過ごしていた。

悠と話しているうちに、並んでみると思っていたより背が高いこととか、話す時は必ず鼻を触るんだなとか、意外な一面が知れて親近感がわいた。
悠は落ち着いた声でささやくように話すので、耳心地が良くいつまでも話していたくなった。

『綾さんとこんなに話せるの、うれしいです』

「ありがと。お世辞でもうれしいよ」

『お世辞なんかじゃないです…』

少しだけ顔を赤らめてはにかむ悠の笑顔はかわいく、その魅力に惹きこまれそうになった。

夢中で話していたら30分はあっという間に過ぎ、到着した電車に2人で乗り込んだ。
ドア付近にいる人達をかき分けようとしてうまく進めないでいると、悠が手を引いて奥へと引っ張ってくれた。
周りの人から守ってくれるように向き合って立った悠の胸に顔が触れ、ドキドキしている心臓の音が間近で聞こえた。

「ありがと」

そう言って見上げると悠は照れくさそうに目をそらしたが、そんな悠がかわいくて目をそらさずにいると、今度は目が合った。
まっすぐなまなざしに胸が高鳴った。
さっきまでただのバイト仲間だったはずの悠にいつの間にかドキドキしていた。

混みあっている車内では2人の距離がどんどん密着していき、つないだ手から感じる温もりと、包まれている安心感が心地よかった。

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