噂のカッコイイバーテンダーは自然消滅した元彼。元彼は私を繋ぎ止めようと強引に迫ってきた
友達に誘われ、今地元で話題の彼がいるバーに飲みに行くことになった弥生。だが行ってみると噂の彼は弥生の元彼!なぜか友達は帰って2人で飲まないといけなくなり、弥生はその場を去ろうとするが…元彼が強引にアプローチしてきた!人が居なくなった店内で2人の温度だけ急上昇する。
「ちょっと!聖司こんなの聞いてない!こんなことになるなら帰ったのに!」
「そりゃこれから迫るなんて言わないだろ。もう遅い」
「んんん〜〜〜っ!むりっ、ァッ」
誰か嘘だと言って…
*****
「弥生〜!ココよココ!」
「分かったから、はしゃぎすぎだよ落ち着いて」
「だって!あの噂のバーテンがいるお店だよ!!テンション上がるでしょ!」
「…」
ため息をつきながらドアノブに手を伸ばす。
…中に入ってみて呆然。
若い男女がわんさかいる。
カッコイイバーテンダーがいると話題になるほどだから、女性が多いものだと思っていた。
けど、女性が多くなるからこそ男性も出会いを求めてこうなったのか…
バーテンダーより先に店内に目を配らせていた私の背中がバンバンと強く叩かれた。
「いった…」
「ちょっと弥生!やばいよあの人だよ絶対!」
叩く手は強いのに声は控え目な礼奈。
礼奈の視線の向く方向に私も視線を合わせてみると…
「うげっ」
「え?弥生?」
「か、帰ろうよ礼奈…人多いしさ」
「バカ言わないでよ来たばっかりなのにー!」
「あれ?弥生?」
…聞かなかったふりを…
「えええ!弥生知り合い!?呼ばれてるんだけどちょっとねえ!!」
礼奈…察してほしかったよそこは…
テンションが上がりすぎてこっちの様子を伺うこともない礼奈。
恐る恐る振り向くと、嫌味なほどニッコリ笑う聖司。もとい元彼。
「わ…私は帰るよ」
うう、口角が、頬がひきつる…
苦笑いでどうにか帰ろうとするも…
「え?久しぶりに会った知り合いなら尚更飲んでこうよ!ほら弥生早く!」
ようやく何かワケありだと察した礼奈だけど、悪い方向に察してしまった。
ニヤニヤと顔の横に書かれそうなほどの笑顔。
これは面白がってる顔だ。
すかさずおしぼりを2つ持って席へ促す聖司。
ああ…これは帰れないのか…
「弥生と聖司さんはいつからのお知り合いなんですか?」
前のめりで聞く礼奈に、営業スマイルで一定の距離を保ちながらも柔らかく返す聖司。
「実家が隣同士なんですよ、だから生まれてすぐから会ってたらしいですね、小中は一緒でしたよ。高校は俺男子校に進学してたのでそれからはあまり話さなくなったかな」
「えーもったいない!聖司さんこんなにカッコイイんだから共学に進めばよかったのに!」
「いやー、むさくるしかったけどあれはあれで楽しかったんだよ」
昔からコミュニケーション能力の高かった聖司は、更にその力を伸ばしていた。
初対面の人ともこんなに楽しそうに話せるってすごいなぁ…
あんまり長話したくないけど…礼奈は長居する気満々だし、お手洗いでもいこ…
私は席を立って化粧室に逃げる。
まさか…噂されてるバーテンダーが知り合いだったとは…
とりあえず早く帰りたい。
大洪水でした。
聖司 さん 2023年3月30日