勘違いから始まる彼との長い夜 (Page 2)

カズくんはそれ以上はいわず、ぱっと手を離すとソファの方へと向かっていった。

「初めて上がらせてもらったけど、キレイにしてるじゃない。アンタのことだからもっと散らかってるのかと思ってたわ」

「すいませんね、いつも汚いイメージしかなくて…」

「あら、怒っちゃった?もうっ、冗談よ冗談!ちゃんと着飾ったらアンタは本当にお人形さんみたいなんだから!」

くすくすと笑うカズくん。

もう怒る気もなくなって、私はアウトといわれた冷蔵庫から缶ビールを二つ取り出して彼のもとへ歩く。

「はいかんぱーい」

「ちょっと、もう少し嬉しそうに乾杯しなさいよミオったら」

すねたフリをして、カズくんをからかう。

こんなこともいつもと全く変わらない。

ここが自分の家でなければ。

ごくごくと一口目を飲んだところで、カズくんがソファの前のローテーブルに缶を置いた。

「まさかアンタがアタシを家に上げてくれると思わなかったわ」

「え?そう?」

「ええ。ちょっと嬉しい」

嬉しそうにはにかんだカズくんに、思わず笑みがこぼれる。

「そろそろ遊びに来てほしかったの。だって、カズくんは私の親友なんだもん」

私の言葉に、カズくんは一瞬動きを止めた。

私がそれを疑問に思う間もなく、カズくんはまた笑顔を作った。

細くなる目元。

「そうね。親友だもの」

「ほんと?カズくんも私のこと、そう思ってくれてる?」

「ええ、もちろん」

「そっか。よかったあ」

嬉しくて、ついビールが進む。

それでも酔ったりはしないけど。

私もカズくんも、お酒はすごく強い方だ。

だから、お互いがまだシラフなのをわかっている。

「ねえ、ミオは彼氏作んないの?」

急にそんなことを聞かれて、私は「へ?」と変な声をこぼした。

「どしたの、急に」

「ちょっと気になっただけよ」

カズくんは、今もいつもと同じように笑っている。

笑っているはずなのに、少しその顔が冷たく見えるのは、気のせいだろうか。

「うーん…正直な話してもいい?」

「いいわよ」

そんな彼をまたからかってやろうと思い立ち、私はにやりと笑みを浮かべて彼の顔を覗き込んだ。

「カズくんが彼氏だったらいいのになーって」

「…へえ?」

「優しいし、話も合うし、かっこいいし!私の理想の彼氏像なの!でも、カズくんオカマでしょ?女の子になんて興味…」

そこまでしかいえなかった。

気がつくと、私はカズくんにソファへ組み敷かれていて。

急速に思考が停止する。

「…え?」

「アタシが女の子に興味ないなんて、いついったかしら?」

そう呟くカズくんの声色は、いつもより鋭い。

「か、カズくん…」

「アタシ、バイなのよ。女も男も関係なく、好きになった子にしか興味ないの」

衝撃的な言葉に、私は金魚のように口をぱくぱくさせる。

「ご、ごめんなさい、カズくんのこと勝手にオカマだなんて…」

「この際そんなことはどうでもいいわ。でも焚きつけたのはアンタよ、ミオ」

「え…?」

「アタシがアンタをどんなふうに見てたのか、教えてあげる」

いつもよりも低く喉を鳴らした彼に、私の背中がぞくりと疼いた。

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