可愛い青年を大人にしてあげようと思います
出版社で働く唯。バイトの安芸君に折り入って相談したいことがあると言われ、居酒屋で飲むことに。相談内容はというと『童貞を卒業したい』と。経験豊富そうなので是非ご指導をとか言われても別にそう経験豊富ってわけでも…。でも、それも楽しそう?初心な青年相手に快感が止まらない!
担当マンガ家が遅筆で3徹。コンシーラーやファンデでは隠せないクマでひどい顔だが、何とか校了を終えたのが一昨日。今日は定時で終わりそうだ。出版社の校了前というのはどうにも、朝も夜もない。だが酷い嵐も通り過ぎれば、からりと晴れるように、校了さえ過ぎれば1週間ぐらいは穏やかな日もある。
デスクで仕事してると最近入ったアルバイトの安芸君がコーヒーを入れてくれた。
「ありがとー。あ、今日お菓子買って来たんだ。甘いもの大丈夫?」
「大丈夫というより、好きです」
近くの焼き菓子が美味しいと有名なパティスリーで買って来たお菓子を手渡す。安芸君はすぐ仕事に戻るとおもったんだけれどなんだかまごまごしている。そして、意を決したように顔を上げた。
「あの、折り入って相談があって。その、今日定時で帰れそうだったら、ご飯とか。お願いします」
女性の誘い方としてはまあ及第点だろう。しかし、相談か…。年下から頼られるのって悪い気がしないよね。ちょっとかわいくて安芸君のことは気に入ってるし。
「いいよ、力になれるか分からないけど。居酒屋予約しとくから、定時になったらまた声掛けるわ」
「はい、ありがとうございます」
そこで声を掛けられ、去っていった。スマホでよく打ち合わせなどにも使う居酒屋を予約する。相談なら、打ち合わせと同じで個室の方がいいよね。適温になったコーヒーを一口飲んで、定時に仕事を終わらせるべく仕事にとりかかった。
*****
「わざわざ貴重な時間を割いていただいて、ありがとうございます」
「別にそんなにかしこまらなくてもいいよ。まだスケジュールには余裕あるし。まあ、あと1週間もしたら大分忙しくなるから今日で正解」
個室風の居酒屋には有線で流行りの曲がかかっているぐらいで、隣の人の話し声も聞こえない位壁も厚い。お通しで運ばれてきた枝豆を食べながら、メニューを見る。
「嫌いなものとかある?ないなら適当に頼んどくけど」
「特にはないです。チューハイとか頼んでいいですか?」
「もちろん」
あんまり飲んでもなと、結局私はジンジャエールにした。
料理を食べてるうちに、安芸君にちょうどよくアルコールが回ったのかぽつぽつと話始めた。
「高校まで部活一筋で、彼女と続いた試しがなくて…。その、経験がなくて。さすがに20歳過ぎて焦ってきたというか、その、経験豊富そうな久世先輩に是非ご指導願えないかと」
「え、経験豊富って、え?」
相談内容以上にそんな風に思われているのがショックな一言だった。
レビューを書く