裏切れない相手ができました (Page 5)
バスタブにお湯を張ったので、べたべたになった体をシャワーで清めて温かいお湯につかる。お湯が指先にまで沁みてくると体も少しほぐれた気がした。
「お湯につかると力が抜けるのは日本人の性かしら」
「分かる気がします。光希さんのお礼最高でした。タイミング悪かったかなと思ったんですけど、最高だったみたいで。間の悪さに感謝します」
「敬語いいよ?それ癖とかじゃない感じだし。なんか話しにくそう。もっと砕けた話し方で構わないよ?」
「光希さんは年上のお姉さんだからー」
ちょっと悩んだようなそぶりのあと、その一言で私も納得してしまったのかそれ以上敬語について言及することはしなかった。
「じゃあ、またしようよ。私たち相性最高だと思うんだけど」
「そうですね。今度あの医者に迫られたらきっぱり拒否してくださいね。これからは俺が光希さんの一番そばにいるんですから。まあ、その前にもう1回!」
「…仕方ないなぁ」
その日は結局もう触れてないところなんてないぐらい、時間いっぱい抱き合って過ごした。
*****
「だからさぁ、食事だけだよ。ね、それぐらい付き合ってくれても」
「いえ、今日は約束があります」
「今日じゃなくて、明日とかでもいいからさぁ」
相変わらず病院ではあの医者に迫られて正直辟易。思った以上にめげないししつこいな。めんどくさい。ヘッドハンティングされたら速攻で辞めてやる。
「裏切れない相手がいますので。もう定時で仕事も終わってますのでお先に失礼します。彼と約束があるので」
勝ち誇ったように笑ってやった。あの愕然とした顔スカッとするわー。ヘッドハンティング待つんじゃなくて、違う病院に転職考えよっかなぁ。
でも、あの医者以外は本当に最高な職場環境なんだよなぁ。そんなことを考えながら時計をみる。平日の待ち合わせはいつでも病院の職員用の出入り口前だ。
「光希さん、お仕事お疲れ様です。お腹すいてません?給料入ったんでおごりますよ?」
「直樹君もお疲れ様。どっかファミレスでも行こうか。今日はパスタの気分ー」
手をつないで私たちは歩き出した。
Fin.
レビューを書く