冷えた体を温めてください

・作

食品会社の営業として働く彩羽(いろは)。上司の葛城主任と外回り中、ゲリラ豪雨にあい目に入ったラブホテルで雨宿りすることに。寒さで震えながら『主任、温めてください』と口にすると『いいよ』と腕を広げてくれた主任と就業中のいけない情事。

食品会社で営業として働き始めて3年。毎日充実しているからか日々が飛ぶように過ぎていく。後輩もできたけれど、まだまだ学ぶことも多く、長い付き合いのある所への挨拶はまだ上司である葛城主任と一緒に回ることも多くて。

「来たときは晴天だったのにな」

「今日は降水確率0%だったから傘持ってませんよ」

朝のニュース番組でお天気お姉さんがにこやかな笑顔で今日は一日晴れで気持ちいい一日だと。ピカッと閃光が走る空、地面にたたきつけるように降る大粒の雨。オフィス街名物、ゲリラ豪雨。こうなったら小一時間はやまない。

「会社一度戻る予定ですけど、どっかで雨宿りしないと…」

「このままここにいるわけにはいかないしな。走るぞ、金井」

「え?!」

*****

結局びしょびしょになり、雨はさらに激しくなり、現在たまたま目に入ったラブホの一室。
棚にあったタオルでぽたぽたとしずくがこぼれる髪を拭いて、鞄を開ける。中のものが濡れてないことを確認して、一息ついた。一息つくと同時に目に入った大きなベッドに心臓が急に強く鼓動を打つ。どこに目線をやっていいかわからず俯いていると主任が

「走らせて悪かったな、大丈夫か?」

と大きなバスタオルで体をくるんでくれた。そっと手に触れて、困ったように笑う。そこで初めて自分がかすかに震えてることに気が付いた。濡れたシャツに体温が奪われ、手も冷たくなっていた。

「手、冷たいな。寒いなら空調切るか。風呂はガラス張りだしな。布団くるまってても…」

エアコンのリモコンを手に取った主任のスーツの袖を引いた。驚いたように主任が振り向く。私はまた少し袖を引いた。

「主任、温めてください…」

その言葉に驚いたように目を見開いた主任を見て、慌てて取り消そうとすると両手を広げられた。

「いいよ、おいで」

少し近づくとぎゅっと抱きしめられる。同じぐらい濡れていたはずなのに主任は温かかった。戸惑いがちに広い背中に腕を回す。少し顔を上げると目が合った。その目が細められるとともに唇を塞がれた。

「唇も冷たいな」

「まだ、寒いの…」

掠れた声で甘えるように胸に顔をうずめる。これ以上言葉はいらない。黙って主任の顔を見上げた。

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