ずっと好きだった親友に弄られて濡れる夜

・作

社会人になって1年目の私と尚樹は週末になると不満を吐き出すために尚樹の部屋で飲み会をしていた。高校生の頃から周りが勘違いするほど仲良しの私たちではあったが、決して付き合うことはなかった。でも、実はお互いに内に秘めた気持ちがあった。いつも元気な尚樹が初めて見せる「男」の顔に私の股はトロトロになってしまい…。

「はぁぁあ~」

「今日もだいぶ絞られたようだな?」

ベッドにダイブした私は、肺の空気をこれでもかと押し出すほどの勢いのため息を吐いた。

「お前さ、スーツの上着くらい脱いでからにしろよな。シワになるだろ~って待てよ?それ俺のベッドなんだから、どけどけー!」

そう言ってベッドに倒れ込んだ私に向かって、尚樹はクッションを投げつけてきた。

私もやられてばかりではない。枕を掴んで反撃に出る。

それから2人で修学旅行並みにベッドで一通り大暴れした後、私たちはズルズルと床に滑り降りた。

「疲れているのによくやるよな~」

「最初に仕掛けてきたのは尚樹でしょ?」

枕やクッションでお互いを叩き合った結果、シャツにもスーツにもシワが寄り、頭がボサボサに乱れてしまっていた。
尚樹は笑って、さらに私の髪をクシャクシャと乱しながら立ち上がる。

「ちょっとー!人を立ち上がる時の支えにしないでよね」

「はいはい、そんなに怒るなよ。亜理沙は梅酒でいいんだよな~?」

キッチンへと歩く尚樹の背中に向かって「梅酒~」と返事をした。

1LDKではあるがカウンターキッチンになっているので、お酒の用意をする尚樹がリビングからよく見える。
そんな尚樹の姿を見ながら私は頬杖をついて、月日が経つことの早さをしみじみと実感していた。

私と尚樹は高校生の頃からの親友で、水泳部が一緒だったことから仲良くなった。
それに加えて、8クラスもあったのに3年間もクラスが同じという奇跡の仲でもある。

昼食を一緒に食べることもあったし、テスト前には図書館で教科書を突き合わせて猛勉強していたこともあった。

あまりにも仲が良かったことから、当時お互いに付き合っていた相手から浮気を疑われ、お互いにフラれるという経験もした。
その時は「亜理沙のせいだ!」「尚樹のせいよ!」と大喧嘩になったが、それも今ならいい思い出になっている。

尚樹とはたくさん思い出はあるが、やっぱり1番覚えているのは水泳の全国大会の時だ。

仲間たちと切磋琢磨して、やっと全国出場の切符を手に入れた…そんな矢先。
尚樹は右肩を故障してしまい、夢の全国大会へ出ることができなかったのだ。

みんなの前では笑顔で平気な顔をしていたけれど、2人になると私の手を握りしめて泣き崩れていた尚樹。
私はただ手を握り返して一緒に泣くことしかできなかった。

高校卒業後はそれぞれ違う大学へ進学して、私はオフィスの受付、尚樹は営業マンになった。
しかし、社会の風当たりは強い。まだまだひよっこの社会人1年目にとっては逆風の中を突き進んでいるような感覚だ。

高校生の頃に戻りたいなぁなんて、尚樹を見ていると思う事もある。

でも、そんな甘えたことばかり言っていられないのも新社会人の切ない現実だ。

だからこうして週末には尚樹の部屋で飲みながら、会社の愚痴を言い合うのがお決まりになっているのだった。

早く飲みたくてたまらない私はお酒とおつまみを準備して戻ってきた尚樹のお盆から、すかさず梅酒の入ったグラスを取る。

「あ~っ!先に飲むなよ!?まずは乾杯してからだ」

「わかってるよ!はぁ~、早く飲みたいっ!」

「あんまり飲み過ぎるなよな。亜理沙は酔っぱらうと脱ぎ癖があるから迷惑なんだよ」

うるさいなぁと尚樹の腕を軽く叩く。昔に戻ったみたいで楽しい気持ちになる。

それから私と尚樹は乾杯を合図に、「会社の愚痴大会」を開催させたのだった。

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