ワンナイトからはじめる恋愛のススメ
合コンで会ったイケメンと意気投合して勢いで一夜を共にしたOLの律。結局連絡先を聞き忘れた矢先、一見さえない同僚が眼鏡を外したら例のイケメンそっくりで…。え?どういう事?さらには「あの時と同じ事しようよ」と誘われて…
金曜日に合コンに行って、超好みのイケメンとテレビドラマとか映画とかの話で意気投合し、びっくりする位あっさりと一夜を共にして、今駅の改札。
「身体、辛くない?」
「大丈夫」
「それじゃあ、また」
彼が立ち去って少し後に連絡先を聞き忘れていたことを思い出した。その時には彼の背中は人混みの中に消えていた。
*****
何であんなにうかつなことをしたんだろうか。それで週明け早々に
「残業とか…」
人がもうまばらになったオフィスで誰にも聞こえない音量で呟く。いや、別に進行が悪かったとかそういう事じゃないけど。定時間際に仕様の変更とか言わないでほしい。せめて三時間前に言ってよ。でもやるしかない。そう思い気合いを入れ直していたら、そっと紙コップを置かれた。
「コーヒーどうぞ」
「ありがとう、柳君。柳君も残業?」
「ええ、まあ…。こっちも仕様変更で…」
柳君は気が利く。同期の彼は仕事が丁寧で、愛想はないけどお辞儀とかの所作が綺麗だ。清潔感あるし、整えられた爪が本当にいいと思う。そつがないタイプだ。けど、瓶底メガネがなぁ。その野暮ったい眼鏡が彼の第一印象と言っていいだろう。
「仕様の変更できたし、帰ろー」
「声の記憶って残らないって本当だ。誰が言ったか知らないけど、ねぇ、律さん?」
呼び方とそのイントネーションに覚えがあり振り返る。珍しく眼鏡を外した柳君と目が合った。その顔は間違いなくあの合コンで会ったイケメンだった。
「え、え?啓吾さん…?え、待って、だって名前、双子とかじゃ…」
「長くなるんで、場所変えましょう」
再び眼鏡をかけた彼と会社を出た。
*****
何かよく分からないまま、流されるままにイタリアンレストランで注文したパスタを待っている。
「柳君はあの時、曽根崎啓吾って名乗ってたわよね。一体どこの誰?」
「曽根崎は母の旧姓で…、啓吾は兄の名前…。あの後他のメンバーにも同じこと言われた」
最後の方が声が小さくなった。悪いことしたという自覚はあるらしい。
「偽名の理由は?」
「単純に気まずかったというか、結構強引に誘われた合コンに行ったら職場の同僚しかも同期とか。声でバレるんじゃないかってヒヤヒヤした」
運ばれてきたパスタを食べながら、ぽつぽつあの日の事を話す。合コンの時ほど弾んだわけじゃないけれど、会話が途切れることはなかった。
「なんか、いまだに現実感がない。実はこれは夢で、アラームで目が覚めたりして」
「まあ、急に色んな事驚かせたし、主に俺のせいで。でも不安なら確かめない?あの時と同じ事しようよ」
甘く微笑まれて、断るなんて選択肢なかった。
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